望むか否かに拘らず、コロナ禍によるリモートワークでの仕事形態が日常化している。都心の普及率は50%を超えた程度だが、その傾向は加速している。実は真面目な人は休みなく働き続け、かえって働き過ぎになってしまう。注意が必要だ。リモートワークでは、仕事が出来る者、そうで無い者との差が顕著に現れると言われている。単独で完結する仕事なら良いが、プロジェクト化した仕事の場合は猶更である。
リモートワークとは、本来、人と人が直接出会う状況が制約されている中で、プロフェッショナルとして自立した者同士が連携して仕事をする為の手段である。従って、仕事の段取り力、品質、スピード感、達成力、情熱などが均質な者同士が協力し連携し合って、直接会えない、議論出来ないハンデキャップを乗り越え、ある達成目標を達成するのが望ましい。
その原則を忘れ、全ての人々に適用しようとしても無理がある。同じ仕事でも、人によって能力も感性も異なるので、差がつくのは当然である。複数人のプロジェクトでは、デコボコのスキルや個性の人々が集まる状況で、皆に同じ指示をしていてはプロジェクト全体のアウトプットの品質が担保出来ない。それを修正するのが対面での指導であり、リーダーが自ら範を示してそれを真似るプロセスである。また、人に教えることで指導者も育ってゆく。(この対面指導をどう行うか、は大きな課題である。)
ビデオ会議が日常化すると、仕事から一瞬離れて雑談するリラックスタイムも失われてゆく。昔、マイクロソフト本社ではコーヒーブレイクの雑談の時間から、様々なクリエイティブなアイデアが生まれて来た、と言われる。合目的な事だけを進めているだけでは、新たに生まれるものも生まれて来ないのである。
現在の環境はあと数ヶ月は続く(小変化)、または今後日常化してしまった場合(大変化)、この状況の中で我々はどうビジネスを進めてゆくべきなのだろうか?また、大きな危機の後には、新たな行動変容、社会構造の変化が現れるという歴史的な事実と照らし合わせると、今後の「仕事の概念」が根本的に変化する可能性もある。リモートワークに移行することによる、この小変化と大変化について私見を述べてみたい。
<第一ステップ:小変化>
1 ) 第一次情報収集がしづらくなるという特徴
例えば、クライアント情報の中で、その産業の具体例(製造現場、店先での応対、消費者の動きなど)の現場情報が取りづらくなる。直近では、新規クライアント企業のカルチャー、権力構造や意思決定プロセス、Key Manの好き嫌いやChemistryなど、が見えづらくなる。一緒に働くプロジェクトメンバーの個性、得意/不得意、精神性、ストレス耐性なども分かりにくい。また、プロジェクト評価などに於いても、相手からの生の情報のフィードバックが受けづらくなる。
企画書や提案書、プロジェクト評価、人の評価等、アウトプットに臨場感を与え、相手を納得させるのに不可欠な第一次情報の取得と、自分で判断し理論を展開してゆくという基本的なプロセスに決定的な不足感がある。それにも増して、顧客の課題、プロジェクトの課題等の課題設定が困難となり、提案のポイントがずれてしまうリスクと常に隣り合わせであるという認識が必要だ。
2 ) 現行業務での対応
- 肌感覚が不足している為、情報収集の方法やプロジェクトレビューは一段掘り下げる工夫。
- チームフォーメーションに、メンバーの能力やケミストリーを十分に把握した上での作業分担の工夫が必要。
- 課題の発見と設定には、その企業の業界位置、収益率、成長率、競合等の観点から丁寧に掘り下げてゆく必要がある。また、アウトプット重視の故に、意思決定に至った中間プロセスが見えづらい為、プロジェクトレビューは顧客などを巻き込んで十分時間を掛ける必要がある。
- 表情報と裏情報をバランス良く取得する為、通常のOne to Oneの雑談等を個別にビデオ会議で設定するのも一法である。(日頃発言の少ない人に積極的にマイクを向ける工夫も必要。)
- Job Descriptionが明確なプロジェクトはともかく、新しい企画や構想力が問われる様なプロジェクトに関しては、明確にOnline会議の限界点を知り、Online対応と対面での現場対応を上手くバランスさせて対応する事が求められる。
- チームマネジメントやメンバーの育成という観点では、大きな限界点が存在するという認識が必要だ。業務評価についても時間給とパフォーマンス給のバランス、またリモートワークのもたらすストレスマネジメントに関しても新たな考慮が必要となる。
<第二ステップ:大変化>
コロナ禍が契機となり、今後数年間の間に5つの破壊的テクノロジーと言われる「AI、5G、自動運転、量子コンピューティング、ブロックチェーン」等の先進技術は大方運用の見通しがつき、今までスローペースだった社会のデジタルシフトが急加速する。その影響は、
- 働いていることへの社会的価値の変化により、「仕事」のオペレーショなるな部分はテクノロジーやAIでカバーされ、「人の仕事」とは、本来の課題設定力、その解決の実行案の企画力、構想力、またそれを推進する実行力を指す時代に大きく変化してゆく。これは、時間給的な発想の仕事の割合が激減し、プロフェッショナルとしてのパフォーマンス給がメインの働き方に劇的に変化する事を意味している。
- 仕事の役割分担は大きく3層に分断される。戦略的プロフェッショナル(リーダー)、戦略形成の基盤となるデータを解析し、デジタルを駆使し提言したり、プロセス全体の構想力のあるプロフェッショナルスタッフ、オペレーショナルな仕事やサービスに専科したスタッフ(但し、常にロボティックスやAIとの競合に晒される。)
- より「体験価値」を明確にし、それをデジタルで表現する形へ産業価値構造(政治、経済、文化、アカデミア)がシフトしてゆく。
- リーダー人材に関しても、戦略的スキル、デジタル活用のスキルは勿論、「非認知能力」の重要性が飛躍的に高まる。(非認知能力:「やる気」、「最後までやり抜く気概」、「リーダーシップの力」、「協調性」など、通常のIQでは測れない内面的な能力。EQと呼ばれる。)戦略スキル、デジタルスキル、高い専門性があっても、非認知能力に秀でていないと、多様性あるチームを率いて価値ある結果を残すことが出来ない。
- グローバルレベルでのビデオ会議での発言力、交渉力は必須であり、英語、中国語が必須科目となる。
今回の様な感染症禍は、今後、数年に一度現れる自然現象とも言われ、日常化する可能性が高い。メディアでは「コロナ禍に勝利する」などの発言が多く、私は違和感を感じている。養老孟司氏の著書「人間科学」にも自然の驚異に対する「手入れ」の発想が詳細に説かれており感銘した。これは日本人が古くから慣行してきた文化であり、世界に広めるべき自然や生態系に対する人間のあるべき姿だと言う。今回のコロナ禍に対する人類の対応は、実は大自然の驚異に対するものである。再確認し、もう少し謙虚になり、丁寧に「手入れ」して付き合ってゆくべきかと思う。
最近のコメント