「狭き門より入れ!」
-普段着の経営者像ⅶ
転身をサポートする立場として、幹部候補者の方々の様々な悩みに付き添う事が多い。
よく遭遇するのは、候補者の方が転職先からのオファーをゲットしたタイミングで、現職の企業での候補者の昇格が決定する事である。全く、エグゼクティブ・サーチ泣かせではあるが、それだけの市場価値があったという事で、最近は喜ぶことにしている。また、転職先の新しいポジションのオファーが出たが、その現職ポジションには候補者のかつての親友が在籍していて、そのリプレースだった、などという話も聞く事がある。いずれにせよ、候補者にとっては悩ましい選択肢の中で決断を迫られるのである。
そんな時、自分にとって「狭き門」(注)と感ずる方を選んでおけば間違いない、とアドバイスする事が多い。「狭き門」と言っても限度はあるが、「心、技、体」の三拍子が揃っている時期にチャレンジしなくて、人生、何時チャレンジするんですか?などと過激な事を言う事にしている。
というのも、自分のキャリア、業種、業界のノウハウ、人脈、またポジションの経験などがぴったりあって、一見リスクの少ない様に見える転職(これを我々は「平行異動」と呼ぶ)でも、実は、転職の成功要因はカルチャーへのフィット感やコミュニケーション能力など、要求されるスキルセットや業界経験とは別の要素が利いてくる事が多く、リスクが無いとはとても言えないからである。一方で、「狭き門」に対するアプローチには、業界が違ったり、スキルセットがそのまま通用できないケースも多い。候補者は自分のキャリアに対する「構造的な分析(部品展開)」とスキルセットの「再構成」という作業を行った上で、適合性を厳しく見極めざるを得ない。自分の市場価値に対する客観的な内省と、リスクに対する「覚悟」があるのである。転職の成功にはこの「覚悟」の様なものが重要で、後者が必ずしもリスクがあるとは言えない。
この辺が人生の複雑なところであると思う。
注 :「狭き門より入れ!」はもともと新約聖書『ルカ伝』第13章第24節の言葉であるが、むしろ仏作家アンドレ・ジッドの「狭き門」の方がよく知られているのではなかろうか?
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