最近熟年の紳士、淑女からの再就職依頼のお話が多く、なかなか適切な対応がしずらく苦戦している。前々から気になっていた事の一つだが、「熟年の再就職」について長年エクゼクティブサーチ業を営んできた経験から、少し私見を述べたいと思う。まず熟年とは何歳ぐらいを指すのだろうか?55歳から65歳という感覚が私にはある。一つには年金支給が65歳あるいはそれ以上に引き上げられる環境と、一般企業の定年の概念が実質60歳に留まっている(形式的に65歳としても60歳以降の就労条件が大きく異なる場合が多い。)というギャップがある点が大きいのかも知れない。これは人生100年時代とか、年金開始年齢の引き上げとかで行政の年金資源の枯渇をカバーしようという動きと、経済界で60歳実質定年であり次の世代への新陳代謝を図りたいという思惑とのギャップでもある。特にコロナ禍以降の社会、価値観、働き方がはっきりと変化している事に加え、就労年齢には個人差が大きくあり十羽一絡げに述べる事は殊の外難しい。様々の考え方があって良いと思う。私は3つの視点から考えを纏めたい。
第一に、どの様な形態での就労を望むか?雇われ側か雇う側かの問題である。
第二に、自分の資産(アセット)を社会に還元するという発想。(社会貢献性)
第三に、社会通念上の壁をどう乗り越えるか?の3点である。
第一の観点に関して、私事で恐縮ではあるが、45歳で大企業から転職しネットワークの中での「半独立」の道を選んだ。半独立というのは、一から企業を立ち上げるとなるとそのノウハウも、新たな起業へのアイデアも不足しており、また起業家に対する欧米の様なエンジェル制度も不十分な現在の日本社会では、ある既存のネットワークや骨組みを活用してその中で独立の道を進もうと考えたのである。現在の組織は世界に70か所のグローバルネットワークを持つ組織だが、組織運営はパートナーシップでローカルオフィスは基本的に株式会社を名乗り代表者はその会社の過半数の株式を持つことが条件となる。
各ローカルオフィスは10人前後のオフィスが多く、会社は小さいながらも経営のABCはすべて揃っいる身であれば再就職活動となるが、雇う側に回れば良き人材の採用活動となる。当たり前のことだが、一つの盲点である。但し雇う側に回るには、気力、体力、技力と信望が必要だ。その意味で大企業の雇われ側で長年いらっしゃる方で経営者志向が強い方には、「半独立」形態がお進めである。雇われ側でひとかどの地位や遣り甲斐をみつけるのならばそれも良しだが、第二の観点のその後の続行性や社会還元への道筋をよく検討されるべきかと思う。
第二の観点、自分のアセットを社会に還元する発想の有無は殊の外重要である。比較的熟年世代の意識にある事も多く、身近な作業レベルから企業活動まで広範に及ぶのだが、何故重要かと言うと、それが60台、70台(もしや80台)の生き方に大きく関連してゆくからだ。この熟年の再就職はその継続性の序章であれば尚良いと考えている。勿論それなりの仕事をそれなりの企業、立場でこなして来た方々の再就職が中心話題なので、その指向性のあるベンチャー立上げ、中堅企業、大企業への再就職となる。大企業の多くは特例は除き熟年世代を次の若い世代への世代交代としたいという傾向が強い。何等かの分野で、巧なり名を遂げた様な方なら社外取締役を複数兼務する道はある。中堅企業特にオーナー企業は事業承継に困っていたり、新たなビジネスドメインをAIを駆使し企画、立案、実行する人材に恵まれていないケースも多く、そのアイデアを持ってオーナーと面会すると成功確率は高い。但しオーナーに直接面会するにはそれなりの人脈が必要である。最後にベンチャーだが、余程アイデアを暖め時代に即したサービスの案を練って来た方は例外として、やはり前述の「半独立」の道が現実的なのではないか?と思う。何らかの既存のネットワークやフレームワークに自身の強みのスキルセットを融合して新たな分野を切り開くのだ。但し何らかのネットワークやフレームワークに寄らないベンチャー立上げは仲間と協同でやったにしても、かなりのエネルギーレベルが必要で、財力、知力があっても体力、胆力に自信が無い方は避けた方が無難ではある。
第三の観点、社会通念上のハードルをどう乗り越えるのか?については、弊社のお相手している方々はもともと一流大学から一流企業に就職された方々が多く、社会通念上のエリート街道を走って来て、その同じ線上で物事を発想する癖が抜けきっていないケースも多い。私の場合も、外資系だが東証一部上場企業からの転職だった。私がこの仕事に出会えなければどんな人間になったのだろう、とはそういう事で、僭越ながら経営という観点で視野が狭い方々も多い。世間体や給料、役職などを気にして思い切ったジャンプが出来ない方々もいらっしゃる。一回性の人生である。お覚悟を定められよ、と言いたい。
何れにせよ、今までの自身の経験やスキルセットの棚卸しと整理整頓、外部ネットワークや人脈を普段から積極的に広げてゆくアクティビティが不可欠である。日頃何かともがいていないと、少ない貴重なチャンスが目の前に現れた時に全く気付かない、或いは行動に移せない、という笑えない例も多いからだ。基本的にそういう再就職を応援してゆきたい、という弊社のスタンスには変わりがないが、全く準備不足だったり、一旦しゃがむ覚悟がないとジャンプは出来ないとも思う。再就職とは、それほど意味がありなかなかの難問でもある。
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