ユニバーサルデザインとは昨今バリアフリー化された様々な分野のデザインを指し、東京オリンピックやパラリンピックに照準を合わせ、様々なプロジェクトにもその影響を与えている。その中で、本来の機能を果たしているとは言えず、とても気になっているものがある。
2017年に日本でリリースされ最近よく見る通称「ジャパンタクシー」である。
国レベルの施策と民間企業やデザイナーとの連携で生まれて来たものらしい。車椅子対応が出来るタクシーとされている。本来ユニバーサルデザインの代表格である。ほぼトヨタ製のタクシーで独占されているのも奇妙な現象だが、街のあちこちで見られる様になった。
つい最近、このタクシーの車椅子顧客への乗車拒否が頻発していると言うニュースを見た。かねてからこのお洒落とは言えないデザインのタクシーが都内に増殖してゆくのに違和感を感じていた。ユニバーサルデザインの代表格で、東京オリンピックへ照準を合わせて開発したものが、顧客不在と街の景観を損ねるという大きな不具合を抱え、これからどうしようとしているのか、気に掛かっていた。
調べてゆくと、2017年にリリースされてから、2019年に車椅子顧客や様々な外部団体の強い改善要求を受けて、かなり改良を施したらしい。しかし、2020年1月のニュースでまだ乗車拒否が頻発している。一言で言うと、まだまだ運転手、車椅子顧客にとって不便であり、制作、製造、教育、普及、補修関係者などの連携と煮詰めが甘いという事だ。
それぞれの事情を鑑み作り込んだ筈なのに、結果、街の景観も損ね、最も必要とされている人々に役立っていない。乗車拒否の原因は、車椅子顧客の乗降車に相当の時間が掛かり(15分~20分)、混雑する道路上では現実的ではなく、また運転手にとっては手間がかかり、時間ノルマの歩合給のタクシー運転手にとって、時間効率が優先されているとの事である。
東京の交通事情や運転手と車椅子顧客の関係性の煮詰めが甘く、独善的にデザインし開発した国家機関と自動車メーカー、国レベルの奨励システムに補助金目的で多量に購入したタクシー会社、顧客回転にのみ重点を置いたタクシー運転手のインセンティブシステムなど、すべてが中途半端で連携が無く、自己本意である。結果として、「顧客不在」という事態を招いている。
まず、これらの新しいプロジェクト全体に責任と権限を負うプロジェクトマネージャーが不在らしい。皆、自分の責任では無いと思っているのが厄介である。従って、車椅子顧客、関連団体からの強い改善要求を受けて初めて重い腰を上げたのだろう。少なくとも、自動車のプロトタイプ段階で、実際の道路環境でいろいろテストし、改善に改善を重ねて量産体制に移行するのが必要なことは、素人でも分かる話である。
しかも、デザインがあまりお洒落ではない。あくまで私見だが、アニメの「もののけ姫」に、人がケモノ皮に潜り込みニョロニョロと音もなく動き回る動物まがいの存在があり、あの姿を彷彿とさせる。重心が低く音もなく近づくジャパンタクシーの私のイメージである。 英国タクシーを参考にしたと聞くが、似て非なるものだ。あれは英国の街並みに合っていて、ジャパンタクシーは東京独特の歴史と現代が混ざり合った「混沌としたアーバン」にそぐわないのである。今後の「斬新と伝統」の日本を象徴する様な、アグレッシブなデザインを期待したかった。
ジャパンタクシーが無数に走っている様は、都市の景観を損ねるだけでなく、障害者不在のものづくりや非バリアフリーの象徴として、オリンピックに向け大きく東京のイメージを損ねるのではないかと危惧している。
最近のコメント