1 厄介で重要なこと
本来、人の人生は不公平に満ちている。たまたま生まれついた時代、国、環境、血筋、個人の能力、容姿など、どれ一つ取っても公平ではない。ただ、様々な人が集まってチームや企業を形成する場合、経営者やリーダーにとって、最も厄介でかつ重要なのが、「公平の基準」を立てる作業である。
ここがぶれてしまうと、能力があるもの、伸びしろがろあるもの、要領を使って利を得るもの、これから頑張って評価を上げようとするもの、誠意も向上心もなく努力もしないもの、皆一緒くたになってしまう。これはより良い会社にする為の最大の障害となる。少なくとも納得出来る公平の基準、評価の基準と言う「拠り所」があって初めて、人は目標に向かって団結し頑張ることが出来る。
2 基準の選択と実行施策
何が難しいかと言うと、測定可能でフェアな基準を選択するのが一つ、それを具体的に実施する為の、施策(プログラム)を作り、それを皆に浸透させるのが一つ、これらの「基準の選択と実行施策」の2つはなかなか骨の折れる作業なのである。
私を例に取ると、営業職の評価基準は、高度成長期、長年にわたり売上至上主義だった。成熟期に入り、利益率や顧客満足度を評価指標に加える必要に迫られたとしよう。当時IT業界では、顧客のオンラインシステム普及期で、利益率や顧客満足よりも、システムを期日通りに動かす為に、顧客も業者も一丸となっていた。少しでもトラブルがあると、利益率と顧客満足度は下がる一方だが、顧客からの信頼を繋ぎとめるのが最優先だった。前述の3つの評価基準は言われてみると至極当たり前だが、どう行動すべきかも分からなかった。
3 マーケティングプログラム
新たな評価基準は立てたが、実行する為の適切なマーケティングプログラムが不在だったのである。営業職からマーケティング職に移りそれを知った。利益を阻害するものの根本原因を見定め、日々の行動の中でそのプログラムを実行する。すると自動的に売上も利益も改善されてしまう様な、実行可能な施策(プログラム)にまで落とし込む。これがないと、戦略が良くても実行が伴わない。笛吹けど踊らず、ということになる。
その際、非営業職の支えで営業職の成果が具現化することが、営業職の人々に認知、徹底されれば、Fairな感覚が生まれて来る。これも、一つの「公平の基準」である。とかく営業がバックオフィスの人々を食わせている、と言う感覚では、全社レベルの公平の基準は醸成されない。全てに言えることだが「持ちつ持たれつ」の感覚が、皆の府に落ちる様に、良く練られた、分かり易く、シンプルなプログラムが必要なのである。
4 プロ競技のスタッツ
プロ競技に生きる者達は、何らかの測定可能なスタッツを持っている。ゴルフでは、年間を通して安定した成績を残すこと、一つの試合を勝ち抜くこと、の両面で、10ぐらいの重要指標があり、選手はそのスタッツを見て自分の改善ポイントを確認する。スタッツはFairな競争の為の「公平の基準」である。会社も競争社会で生きている以上、経営指標、経営のスタッツにコミットするのは当然である。売上、利益、顧客満足度の3要素などは、基本中の基本である。それが達成された、或いは達成出来なかった際、その原因をもう一段掘り下げる必要がある。例えば、利益率を構成する要素を分解してスタッツを設定する。ドリルダウンして自分の改善点を見出さないと、具体的な施策にはならない。そういう自分や自社のスキル・技量の現在位置の確認、目標に向かっての弛まぬ改善無くしては存続が難しい。これも、競争社会で生きる者としての「公平の基準」である。
5 人間の判断すべきこと。
昨今の、DX(デジタルトランフォーメーション)などというバズワードに惑わされてはならない。AmazonやFacebookの仕組みは、人が考えたのでありAIが考えた訳では無い。IoTやAI技術を駆使しても、人の一部の判断や作業の代替が出来るに過ぎない。企業の進む正しい方向性を指し示したり、チームを団結させ人を鼓舞したり、困難な時リーダーシップを発揮したりする事はまだまだ出来ない。まして、公平の基準を打ち立てる様な複雑な作業は、人間しか出来ないし、またやらねばならない高度な仕事の分野なのである。
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