1 歌手: あるプロデューサーの存在
歌手で作詞作曲家である竹内まりやさん(66歳)の40周年を記念する番組が最近放映された。40年間に亘り数々のミリオンセラーをつくり、20代、30代、40代、50代、60代にそれぞれ熱心なファン層を持つ。最近海外でも話題になっている曲もある。また、他の歌手に楽曲を提供しており、それぞれにヒットソングとなっている。パートナーであり彼女のプロデューサーでもある山下達郎氏が、長くトップアーティストとして活躍している理由を分析して、
- 楽曲がミドルオブザロードの範疇であり、万人に親しまれた事。
- 他の歌手に楽曲を提供することで、自身の歌に客観性を保持出来たこと。
- 一貫して人間への強い肯定感に貫かれていること。
の3点を挙げていた。簡潔だが誠に冷静で的を得ているコメントで、彼のプロデュース力あってこそなんだな、と感心した。その番組ではこの40年間でリリースした中で、40曲をピックアップしていたが、それぞれの時代を彷彿とさせるでのミリオンセラーだった。
長く活躍する方々は、時代の要請に合わせプロデュースする力量が問われる。それが本人である事もあるが、前述の山下達郎氏の様な傑出したプロデューサーが対になっていることも多いのではないか、と想像する。常に自分のいる位置を客観的に見る目が必要と言われても、なかなか一人では難しい。優れたアドバイザーの存在は欠かせないのだろう。
同じ事を、長く継続するのも骨がおれるのに、時代を超え長くトップランナーを走り続けている極く限られた人々がいる。我々が物心ついた頃には既に活躍されていて、今尚、新しい姿で登場し注目を集めている。ある時期、一世を風靡することはあっても、それを長年続けるなど至難の業だ。本当に敬服してしまう。我々に真似出来なくとも、その秘訣は何か?それぞれ違った事情と、共通項があるのだろう。大変興味をそそられるのである。
2ある俳優達 : 「一筋の道」と「多彩な才能」
既に50年余りトップ女優にいる吉永小百合さん(74歳)がある最近インタビューに答えていた。自分のペースで興味ある役回りを愚直にやっているだけなんです、と。基本的には映画一本に絞ってやっている。テレビドラマは苦手で、一本で十分だったと言う。被災地支援で朗読活動なども積極的だそうだ。ある意味、純粋で頑固で、自分本位で素朴な感じを隠そうともしないところが意外だった。石坂浩二氏(78歳)は、最近も話題性ある番組で主役を演じられた。多彩な粋人でありかつての「シルクロード」の名ナレーションや「開運!何でも鑑定団」等の司会役で、また美術品の目利きとしても、画家としても著名だ。この二人の俳優は、一筋の道を極めるスタイルと、多彩な才能で広い分野で活躍し続けるスタイルとで好対照である。
3 映画監督: 普遍的なテーマ性
日本人として初めてベネチア国際映画祭で栄誉金獅子賞を受賞した国際的な映画監督である宮崎駿氏(78歳)のアニメを最初に意識して観たのは、「風の谷のナウシカ」だった。独特なアニメ描写とストーリー性に、何か新しいものを見た鮮烈な印象があった。一枚一枚手書きで描く事で、表情や動作表現に緻密で繊細な躍動感を与える事に成功している。大人も子供も楽しめるエンターテインメントの新たな境地を切り開いた。最近も全くアニメとは関係の無いバラエティ番組で、ある芸人が「バルス!」と叫んだのが、ある程度視聴者にも通じたらしいことに驚いた。「天空の城ラピュタ」のラストシーンの「滅びの言葉」である。世代を超え皆に愛されているのである。自然に対する深い畏怖と尊敬、文明へのアンチテーゼが基本になっていて、その後の何本もの大ヒット作にも一貫している様に感ずる。普遍的なテーマ性は、竹内まりや氏の「人間への強い肯定感」もそれに通ずる。
4 文士: ライフワークとの協奏
曽野綾子氏(88歳)は、60年以上に亘る作家活動の中で賛否両論もあるが、私の好きな作家のひとりである。それらの活動と共に、世界の最貧民地区へのボランティア活動の一貫で、クリスチャンとして「世界の最果での地」で奉仕されている日本人シスターをサポートして来た。そういう地域への寄付金は現地の政治家に搾取されてしまうそうだ。そのチェックの為に定期的にアフリカを訪れたのが、図らずも50歳以降の彼女の著作活動に新たな境地を開いた。その経緯で、95年から10年間日本財団の会長を無給で務められた。因みに、元国連難民高等弁務官の緒方貞子氏(92歳)は、同じ聖心女学院の盟友であると言う。緒方氏の長年に亘る国際貢献にも目を見張るものがある。氏の国連でのフェアウェルスピーチは今でも語り草だ。長年の世界の僻地での現場貢献に裏付けられた簡潔で歯切れの良い英語スピーチは、国連職員全員の涙を誘ったと言う。共に世界に誇れる気骨のある素晴らしい日本人女性である。
5 野球選手: 弛まぬイノベーション:
過酷なプロスポーツの世界でトップを維持し続けるのは、他の職業と比べて難易度は高い。生身の肉体の老化は、即引退に繋がる職業だからだ。イチロー選手のバッティング技術への執念ははすざましく、単に凡夫が努力しても達成し得ないイノベーションに繋げることが出来る。それも環境変化に応じて、定期的にイノベーションを起こし、新たな境地に達する。その秘訣は謎に満ちている。数々の世界記録を塗り替えたが、その彼もつい最近45歳で引退した。
トップランナーも、もがき苦しみながら、何とか次のイノベーションを探り当て、また産みの苦しみの中から次の一手を捻り出す。そうしているうちに40年かそれ以上が過ぎてしまった、という感じなのだろうか?何故なら、計画的に連続的なイノベーションなど起こせる訳がないからだ。また、ビッグスターも普通の人も、本質的には「少しの違い」なのではないか?私の職業柄、多くの人を見て来てそう思う。「少しの違い」の積み重ねには、「目線の高さ」も含まれているのだろう。その違いが、年数を経ると「大いなる差」になってしまうところが、人生の不思議さで、ある意味恐ろしいところでもある。
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