事業承継と言っても企業規模、業種・業態、経営のオーナーシップの在り方などによって異なる事は周知の通りだ。私は小さな会社を18年半代表として運営し、昨年末に代表を退任し後継者に経営を引き継いだ。
弊社はグローバル組織だが、日本支社として独立しており小規模で運営していて、代表取締役も売上・利益の個人的な責任を負っており、1名の戦力が退任する影響も大きい。承継後の会社のキャッシュフローの状態も後任者に引き継げるレベルにしておく必要がある。はい、さようなら、という訳にはゆかない。事業承継にはタイミングがある。①ある程度事業が順調である。②現代表の退任意志と後継者の承継意志が明確で、それなりの社員から信頼される人材が存在する。③借入金返済の目途がついている。④承継後のビジネスプランに信憑性があり、取締役会もフォローできる体制である。これらを総合的に判断し最適な時期を「えいっ」と決めるのである。
実際は三年程前から昨年末で退任する事を皆には示唆していたが、その後少々トラブルもあり退任時期を決断するのに戸惑い、昨年の半年間は現実と向き合う煮詰まったストレスの多い期間となった。トラブルとは個人の問題というよりは、コンプライアンスに対する組織の仕組みが欠けていた面に起因していた。社員のモチベーション維持には苦労したが、社外取締役の方々の貢献は有難いものだった。私の退任理由は主に高齢の為(72歳)という尤もらしいものだが、今のご時世年齢と老化には個人差があり、どの程度の限界を感ずるかは本人にしか分からない。まだ会長などで残り社長と協力体制を敷くという判断もあったかも知れない。ただ、やる気のある後継者が居れば出来るだけ早く引き継いで引退した方が良い、というアドバイスがありそれに従うことにした。社長としての18年半は短い様で長かった。
十数年前に経営を引き継いだ際、「取締役会設置会社」にするか否かを問われ、当時は会社の体裁からその設置を決め、3名の方に社外取締役を依頼した経緯がある。一般的な中堅や大手であれば当たり前の話である。しかし、少数精鋭で社長のオーナー色が出やすいサイズの会社での「取締役会設置」はニュアンスが異なる。今から振り返ると、この設置が様々の意味で価値ある判断であり、大きなトラブルから逃れ事業承継に繋げられた大きな要因であったと気付かされる。一言で言うとすれば、重大な決議を取る場合、「会社としての客観性、一貫性、論理性」が担保される。過半数株主である私が一方的なオーナー経営をすることは許されずビジネス上のコンプライアンスや公平性も激しくチェックされる。また一方では、紆余曲折はあれど長年事業を健全に運営して来た事に対する功労についてもフェアに評価される。具体的には、株式の売却や取得、代表給与額の決定、役員退職金規定の決定やそれを賄う為の役員退職金積立基金の運用などの庶務に加え、誰を次期代表者とするかも取締役会である程度の客観性を持って評価するということも含まれる。これらは取締役会という仕組みが無ければ、全員納得した形で決めきれたかどうか甚だ自信が無い。
大企業や中堅企業の様に様々な職掌分担が進み、経営者はその時々の意思決定や今後のビジョンや戦略を明確に社内外に発信してゆくことに集中できる環境とは異なるところが中小企業の難しいところであり、また遣り甲斐でもある。この会社に25年勤務している中で、バブル崩壊、リーマンショック、東北大震災、コロナ、AIに代表されるテクノロジーによる産業構造の変化とサーチ業との競合など、中小企業の経営にはアゲインストな環境であった。売上、利益、キャッシュフローの維持、ランニングコストとのバランスをみての借入金の判断、投資、社員の昇降格、採用、教育計画などなど。所謂、経理・財務部長、人事部長、経営企画部長などを社長が兼任しているのが辛いところだ。何と言っても「公平の基準を立てる」ことが社員のモチベーション維持には最も大切な事だが、社員全員がそれぞれの強みを活かして協力してくれ、何とか経営を維持出来た。この様な経営職の他に日常のコンサルティング活動と売上ノルマがある。この様なことは25年前に入社した時点で分かっていたつもりだったが、実際にやるのと、頭に描くのとではかなり乖離がありかなりハードな仕事だったが、負け惜しみではなく複雑で楽しいものだった。
世間の経営職を相手にエクゼクティブサーチという活動を25年続けてきたが、代表取締役になって初めて気付く経営者の悩みもようやく理解できはじめ、エクゼクティブサーチらしい仕事がキャリアの後半になって出来始めた。何と言っても、社員メンバーには10年~20年以上のお付き合いの方々がしっかりと私を支えてくれたのが、私の経営者としての最大の幸運だった。この仕事は遣り甲斐もあるが、なかなか難しい仕事の一つだと実感する。生成AI全盛の感がある昨今、AIに最も代替される職業の一つがエクゼクティブサーチ業だと言う。果たして企業の現職のエースにお声を掛け、クライアント企業の光と影を紹介し、クライアントと一緒に候補者を口説き、企業の改革や新たな成長をサポートする職業がAIに吸収されるだろうか?大いに疑問に思う。エクゼクティブアドバイザーとしてしばらくフォローするが、弊社が今後も「ピリり」と辛いエクゼクティブサーチとして存続してゆくことを願っている。
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