1 極めきれない多数の人々
技術やスキルは目には見えない。ただ、厳然として存在する厄介な存在で、ジャンルを問わずその習得の差は、齢とともに歴然となる。週末に欠かさず練習を続けているアマチュアゴルファーの八割方は、私を含め何年経ってもシングルプレイヤーにはなれない。一方、適切なプロに習い、集中的に練習して2、3年でシングル入りする人もいる。これはどういう事なのか?最近あるエッセイからヒントを得た。
2 二つの気付き
一つには、技術やスキルは、努力して時間を掛けて練習したからと言って、上達するとは限らないこと。二つには、その上達には、練習法の工夫も必要だが、何より先に「目的」やミッション(使命)が必要である、という事である。当たり前なことだが、我々は分かっている様で分かってはいない。実は、世の中には自分なりに努力しても、報われない事の方が多い。お恥ずかしいが、「努力は報われる」と若い時分は単純に思い込んでおり、この事はいい歳になるまで、とんと気付かなかった。
3 本来の目的を考え、具体化する。
例えば、ゴルフとは、いかに少ない打数でカップに入れるかが「目的」のゲームであり、スウィングの美しさやボールの飛距離を競うゲームではない。英会話なども、その時々のシチュエーションで、お互いにより良く理解する為の道具であり、流暢さや話すスピードを競うのが目的ではない。具体的なニーズや目的が明確ではなく、漠然とやっても上達は望めない。どの様な環境下で、どの様な成果を上げたいのか?という具体的な目的の設定をして、それに応じたスキルや技術を磨かないと上達しない。
また、これらのスキルは、しばらく止めてしまうと、折角上達したとしても元に戻ってしまう。時間が経つと、その時々の環境や自身の体力、気力、柔軟性に変化が生ずるからである。更に、時代が進行すると、従来のスキルや技術が通用しないケースもあるので注意が必要だ。
4 技術やスキルが生まれた背景
技術やスキルが生まれて来た背景を考えれば、まず目的や強いニーズがあり、それをこなす為に何が必要か?を工夫する中で「ある技術」は生まれて来た。この当たり前過ぎる原則を、人は頭で理解しているが、技術やスキルが「手段」ではなく「目的化」して、英会話スクールには懸命に通っているが、一向に実践に役に立たない、という現象に陥ってしまう事が多い。
5 スキルを裏打ちするエピソード
これは他の趣味やスポーツ、芸能、そして我々の仕事でも全く同様のことが言える。
我々は候補者の経歴を伺うと同時に、その方の基本スキルをチェックする。リーダーシップや人やプロジェクトのマネジメント、マーケティング、ビジネスプラン策定、コミュニケーション等の能力である。これらは勿論目に見えないので、それらのスキルをどの時点でどう磨き、活用することが出来たか、或いは活用できなかったかという、成功と挫折の実践エピソードに裏づけられたもので判断するしかない。優秀な方々のエピソードは、成功であれ挫折であれ、臨場感があり必ず膝を打つ納得性がある。一方、座学のみで実践に裏付けられた「知恵」にまで昇華されていない話は、聞いていてつまらないし迫力に欠ける。
6 伝承の難しさ
また、個人の技術、スキル、知恵は、伝承が難しいという特徴を持つ。それは当然のことである。何故なら、最初にそれを創意工夫の中で独自に開発し世の中に役立てた者と、それを言い伝えられ、模倣する者には雲泥の差があるからだ。また、「人は自分の分かるようにしか分からない」という、非常に強い思い込みがある。従って、技術やノウハウの伝承は、引き継ぐ者独自のエッセンスやノウハウをその技術に織り込んで進化させないと、引き継いだ事にはならないのである。これは経営承継や企業の方向性を大転換する際の難しさにも通ずる。単に強権を発動するだけでは、全く覚束ない。
7 技術のみでは役立たない。
例え、個人のスキルや技術があっても、運や人徳や周りの人々の能力を引き出す力が無いと、なかなか大きな仕事は成就しない。自分が、自分が、と言っているうちは、まだまだ想像力が足りない。皆のお陰で生きているのだ。自分独りで出来る事は限られている。
8 組織の本来の目的は何か?
組織においても、見当はずれの「手段を目的化」してしまう事がある。昨今のデジタリゼーションが良い例だ。また、四半期の業績は大切ではあるが、売上を上げ利益を出すのは手段であり、目的ではない。その企業独自のミッションに応じた「企業の目的は何か?」が明確ではない為に、ピリッとしない日本の老舗企業は多い。時代の変遷と共に、人々の価値基準も変化し、企業の存在理由や目的も変化する側面と、やはり時代を超えて変わらないものを追求すべき側面の、双方が存在する。
そう言えば、日本という国はどんな国を目指すのか?という基本ビジョンや目的があやふやである。従って、それを実現する為の戦略的な施策やそれを支える予算も明確ではない。多くの政治家が直近の当選にばかり腐心しているからかも知れない。そろそろ真剣に考えないと、世界のどこからも見向きもされなくなってしまうのかも知れない。恐ろしいことだ。
最近のコメント