年齢を問わず「人の円熟」を感ずる事がある。前回のブログ「人の色気」とも共通する。最近、ゴルフの上田桃子ブロにはある風格が備わって来た感があり、世界マッチプレーで勝った時の青木功プロや、米国LPGAで腰痛回復後、美しいスウィングで米国賞金王となった岡本綾子プロの黄金期を彷彿とさせる。上田プロは2007年、21歳で賞金女王となり、その勢いで6年間米国ゴルフツアーに参戦したが、鳴かず飛ばすで失意の帰国。その後勝てずに悶々としていた時期に、ある縁で野球で著名な荒川コーチ(当時85歳)に師事。氏の亡くなるまでの半年間、アドレスなどの基本要素を一から叩き込まれ、心、技、体の一致を模索する。亡くなられた直後、3年ぶりのツアー優勝を遂げ、本年はすでに2勝。
何がそう感じさせるのか?運、不運に惑わされず、一本明確な軸が身体の中に通っているかの様な、堂々たる戦いぶりである。ゴルフの現役のプロ選手が、野球の名伯楽に師事するのも大変ユニークで、しかも、かつて一世を風靡した選手の復活劇に別分野のコーチが貢献するのも誠に興味深い。スポーツの基本は変わらない、と言う事なのだろうか?
荒川氏は、3つの事を徹底的に教え込んだ。1)アドレス(姿勢)、2)下に絞り込む、3)一球入魂の3点である。百戦錬磨のプロでもアドレスには直す余地があり、基本中の基本なのである。微動だにしない下半身が出来ると、上半身はリラックス出来ると言う。下に絞り込むとは、合気道高段者の荒川氏独特の表現だが、相手を効率的に投げ飛ばす際の身体の使い方であり、それがゴルフスウィングにも共通点があると見抜いたのだろう。一球入魂は、例え練習であっても、試合だと考え練習すること、だそうである。誰でも分かる基本中の基本を丁寧に点検し、それを徹底する姿勢は我々にも大変参考になる。納得感があり、信頼できるやり方である。
10台、20台前半の新黄金時代の台頭著しい女子ゴルフツアーの中で、31歳の上田プロの活躍は世の中に一筋の光を灯す様だ。しかも筋トレ全盛で飛ばし合う世界に、基本を丁寧に、そして徹底して見直す事で復活を遂げたのが素晴らしい。かつての名選手が挫折を味わい、そこから這い上がって再度返り咲くストーリーは昔から存在する。その際、技術的にも精神的にも成長して、ひとかどの人物に昇華するプロセスが尊い。テニスのフェデラー、ゴルフのタイガーウッズなど。
時代の変遷期に、日本の企業の多くは変革を求められている。しかしビジネスの基本を見定め、それを徹底する事で課題が解決されたり、新しい方向性が見出される事が意外にも多いのかもしれない。その際、その企業にとっての「基本を見定める」必要があるが、それはその企業が本来果たすべき使命(Mission)に深く根差したものであれば、納得性がある。
例えば、我々の仕事の基本は「人に会う」ことであり、その面談品質を高める為に磨くべき技術や姿勢、または準備すべきことがある。人の探索や紹介は、その面談品質の高さに根差しており、顧客のニーズに応え、結果として売上につながると見做すことも出来る。その基本の土台があやふやでは、正確に顧客や候補者のニーズを汲み取り、期待以上の成果を挙げることは難しい。
かつてコンビニ大手3社のトップに、コンビニNO.1のS社の売上、利益が他を凌駕しているのか?を聞いたところ、同じ内容の答えが返ってきて驚いた経験がある。「徹底した実行力」が他を寄せ付けないからだ、と言う。大切さは誰にも分かるが、徹底して実行することは意外に難しい。そして、これがあるブレークスルーを生む原動力らしい事が、よく分かるエピソードである。
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