何事も、その人の技量にレベルを問わず、ゲームプランを立てる必要がある。そのプランの優劣が技量の優劣よりも重要な事が多い。また、自分の「技量なりのプランを立てる」ことが更に重要なのではないか?というのが今回のテーマである。
話を具体化しやすく毎度ゴルフの話で恐縮だが、周知の様にゴルフというゲームは、最少打数でホールアウトする事を目的としたスポーツである。「当たり前だ!」という事なのだが、実は大半のゴルファーは、その第一義の目的である「どうスコアを縮めるか?」に集中すべきなのに、残念ながらそう出来ない傾向が強い。もっと飛ばしたい、曲がってしまった、スウィングをチェックせねば、皆に恰好の良いところを見せたい(少ない番手で遠くに飛ばすことなど)、あいつだけには負けたくない、などなど。スウィング論や他の事にかまけ、コース・マネジメント、平たく言うと、当面の相手(コースという自然環境)に対しどう対応するか?という「ゲームプラン」が疎かになり、本義への集中が出来ないケースが多い。
さて、更に重要なのは、そのゲームプランを立てる際に、技量の上手い下手では無く、「その人の技量なりのゲームプランを立てる」という事が、スコアを縮める最も近道である事に気付かないことが多いのだ。30年も続けている自分自身がそうであった様に・・・。技量の上達も重要である。しかし、「今の自分の技量を前提にして、コースにあったゲームプランを立てる事」が更に重要である・・・この事は、仕事や他の趣味にも広く適用できる「考え方」ではないだろうか?
昔、青木功プロにある初心者(平均120前後のスコアの)がラウンドレッスンを受け、青木プロがその初心者の技量に応じたコースの攻め方を毎ホール伝授してゆき、一緒に18ホールを廻るというテレビ放映があった。結果、その初心者は確か「94」というスコアで廻ってきたのである!青木プロの口癖に、「ゴルフが上手くなりたかったら、いいスコアを出してからスウィングを磨け!」という名台詞があるが、要は、「その人なりのゲームプランが技量よりも大切だ」という事なのである。彼の持論は、7番アイアンがある程度まっすぐ打てれば、各ホールをそれなりに分析しゲームプランをしっかり組むことにより、大きな危険を避け、今自分に出来る事にフォーカスしストレスを少なくすることで、誰でも90を切る事が出来る、というものだ。
さて、ここで大切なポイントは、「その人の技量のレベルなりの」作戦を練るという点である。従ってゲームプランは、「最少スコア」を目指す限り、コース作戦を練るのは技量の優劣には関係なく、ほとんどすべてのゴルファーにとっての必須科目だ、という事なのである。「ゲームプランはスウィングが納得できるレベルまで上達してから・・・」、と考えてしまう人が多いが、それは違うのだ。逆に言うと、本番になったら、自分やチームの技量の至らなさは謙虚に受け止めて、その前提に立脚して、最大の効果を出す為に必要なもの(ゲームプラン)にフォーカスせよ!という事だ。
まず陥りやすいミスは、自分の技量の過大評価、過小評価である。自分が7番アイアンで何ヤード飛ぶのか?10発打って何発使えるボールが打てるのか?飛距離と確率が認識出来ていないことで、無謀なショットにチャレンジしスコアを崩す場合が多い。ゴルファーの場合、何故か80%が自分の技量を過大評価している。ある日のミラクル・ショットの記憶が払拭できず、そのイメージでゴルフをしてしまうのである。それともう一つ、「戦う相手」を知らなすぎる。戦う相手は「コースという自然環境」である。同伴者ではない。今日はどういう天候で、コースの各ホールがどういう特徴を持っており、どう攻めると地獄の罠が待っているか、という事を冷静に情報収集して分析する事を怠ってしまう。これはコース・リーディングと呼ぶが、各ホールとも設計者は飴と鞭(罠)を仕掛けていて、ゴルファーのコース・リーディング力を試しているのだ。
これらは、多くの仕事でも陥りやすい状況であり、「自分の技量なりの戦略を練る」事が出来ていない為に、得られるべき成果が得られないという事は散見される様な気がする。まず、自身の仕事のスキル(専門性やマネジメント力)はどの程度のものか?を冷静に分析してみる事。私は長くこのビジネスをやっていて、なかなか難しい作業だと思う。チームの場合は、更に人のスキルを含めたチームとしての総合力を冷静に判断しなければならない。と同時に我々マネジメントとして留意すべき点は、人材がいない、リソースが無い、時間が無いと嘆く前に、「今ある環境や人材を最大限に発揮させる」という事だ。歴史上の様々な勝負をみていると、つくづく技量の総量が一番優れているチームが勝つとは限らないことがよく判るのである。リーダーは限られた能力のチームでも、各々が高くモチベーションされた時に思わぬ力を発揮するという「人間の複雑性」について深い理解と承認が無ければならない。
次に、多くの場合、我々のサービスや価値を提供するその対象である、「顧客」の情報分析が不十分である。どういう業界で今はどういう経営環境(ゴルフでいうと自然環境や今日の天候に当たる)なのか?その企業の業界の中でのポジション(強み、弱み)など、その企業の根本的な経営課題とは何か?その仕事に関連して過去にその企業の失敗例などの情報収集(顧客と協業してゆく際に、得に気をつけなければならない地雷の様なものは何か?)、顧客の持つカルチャーの理解、意思決定権者の特徴や好みの問題などなど、情報収集する分野は意外にも広い。
顧客について十分なコース・リーディングが不十分な段階で、確固たる戦略を立てず、ままよと攻め込んでしまうケースも多いのではあるまいか?従って、どういう顧客に、どういう技量の我々が、どういう価値を提供しようとしているのか?顧客が我々に求めているものなのか?がゲームプラン(戦略)の骨子となる。「戦略」とは、我々の実力やリソースなどを鑑みた上で、思い切って「何をやらないか?」を決定し、やる分野を絞り込んで「深堀り」する、所謂、「メリハリの利いた我々なりの価値の提供の仕方」を考える、という事に他ならない。我々の人材コンサルティング分野でも、果たしてそれが出来ているか?は常に自問自答しているが、甚だ心もとないのである。
私のつたない経験をご披露したい。
かつての会社で、重要顧客の役員会での最終プレゼンに向けチームでぎりぎりの夜なべ作業が続いていた。メンバーはその他の案件も含め最近立て込んでいて、皆かなりバテ気味である。前日となり、皆徹夜を覚悟した。夜9時を回ったところで、明日同席を依頼している担当役員が降りてきて、皆に寿司を差し入れ進捗状況の確認の後、プロジェクト・メンバーを招集した。「皆の努力は認めるが、大事な顧客の役員プレゼンに、徹夜明けで髭もそっていない人間がリハーサルも十分出来ずにぞろぞろ出向くという事自体、顧客に失礼ではないだろうか?資料作成は現在出来ている段階までで中止し、その資料で良いからプレゼンのロールプレイをやろう!」と、それから二時間、どういう事を顧客は望んでいるか?をベースに論点を3点に絞りプレゼン演習を行った。判りやすく論点が整理されているか?その論点を裏付けるデータは揃っているか?どういう質問が想定されるか?など、そこまでのプレゼン資料40枚を半分の20枚に削ってメリハリをつけ、皆、数時間ではあるが睡眠を取り、朝飯を取り髭を剃って、プレゼンに臨んだのである。結果、顧客トップからの反応は「よく練られたプレゼンだった!印象深かった!」との反応を得、5社の競合の中から選ばれ、成約に至った。
後から考えてみると、自分達の技量やその時々の状況を冷静に判断する目と、「顧客が何を望んでいるか?」というコース・リーディング、所謂「効果にフォーカス」が出来た為に成功した、と言えるのかも知れない。往々にして、「我々が狭窄視野で目指しているものと、顧客の欲しているものには微妙な乖離がある事が多い・・・」ことを含め、自分にとっては学ぶ点の多いプロジェクトだった。
もう一つ、ゴルフの上達という意味で、「見栄を捨てる」ことが重要だ。私は、石川遼選手が使っているようなアスリート系のクラブ(ヘッドスピードが速くないと使いこなせないクラブ)を長年使用していたが、最近カーボン製の易しいクラブに買い替えた。私も同様だが、多くのアマチュアは、クラブ選びに見栄を張るのである。自分の技量より少し難しいのクラブ選択をしがちである。難しいクラブで常にナイスショットを想像しながら、難しい攻め方をしてスコアを崩してしまうのも半分は「見栄」が原因である。実は、逆に「自分の技量より少し易しいクラブ」を選ぶのが、スコアメイクという観点でも上達という意味でも効果的だと言うことなのである。易しいクラブで易しい攻め方をし、如何に自分へのストレスを少なくしてラウンド出来るかがポイントなのである。皮肉なものである。ゴルフが以前より「楽になり、楽しくなった。」易しいクラブは、多少のミスもクラブがカバーしてくれる。ラウンド中にスコアメイクにより集中できる様になり、クラブの総重量が軽いので疲れが少なくなった。
下手な見栄を捨てると、「ものの見方」はより柔軟になり、仕事もより「楽に」「楽しく」なるものなのである。これは重要なことだ。本来、仕事は楽しいものなのである。結果として、「良い仕事を長く続ける」ことに繋がる様な気がする。
最近のコメント