1) プロローグ。
55歳というと昔は定年間際で減退を感じさせる年廻りだった。今は全く異なる。実労動年齢の延長のせいか、55歳からの初めての転職志願者も増え始めた。機会とリスクがあるが、いずれ定年後に独立事業主として働く可能性を考えると意味あるチャレンジとも言える。このタイミングこそ、これからの20数年に亘る仕事人生の設計を改めて描くチャンスであり、元気に働き続ける為の本格的なトレーニングを開始する時期である。しかしながら、55歳までの仕事への姿勢や品質、社内外で通用する専門性が問われる為、誰にでもお勧め出来るものでは無く、相応の覚悟が必要だ。
2) 55歳からのチャレンジ。
長年ある外資系大企業で30数年勤務して、それなりのポジションを獲得し社内の信頼も厚い現職である。社長を目指しても日本支社長止まりであり、裁量権も限られている。これからのまだ長い仕事人生を、何かチャレンジし甲斐のある仕事で締めくくり、65歳以降も元気で働き続ける端緒としたい、そういう方々と巡り合う機会が多くなった。
その状況はよく理解出来る。鍛えていれば、心、技、体ともまだ現役に近い状態であり、他の環境で活躍出来る余地は十分にある。しかしながら、我々エグゼクティブサーチとしては、このタイプの候補者に接する際、最も緊張するのである。機会とリスクが明確だからだ。活躍される分野としては、特に、内資の大手企業の再生や中堅企業の海外進出などにその熟練者のニーズが高いケースが多く、それぞれに難易度は高く必ずしも成功が約束されてはいない。
3) リスク要素と意外性。
だからこそチャレンジし甲斐があるとも言える。ただ、特に大企業の場合、55歳にして転職経験が無いケースが多く、自社以外の環境で自分の実力を試した事が無い点(これを我々は、Unproven skillと呼ぶ。)、また失敗した場合に次の機会を紹介する事がかなり困難な年齢に達している点が気になる。一般的には、クライアント企業側は、入社後10年間程度は活躍してもらいたい、と考えている。まだ若ければ、失敗は自身のキャリアの肥やしになるが、中高年の場合、メンタルに影響するケースもあるので注意が必要だ。特に大企業の役員経験者の場合、ほぼ経営判断業務に特化していて、中堅企業に転職した場合、自らハンズオンで仕事がこなせるか?という懸念がある。一方、55歳にして窓際に追い込まれ、止む無く転職に踏み切るという方々も勿論いらっしゃる。ただ、退路を絶っての転職であり、その危機感と覚悟で乗り切り、意外に成功者が多いのも興味深い。
4) 社内転職経験は活かせる。
具体的な社外への転職経験はないが、マーケット開拓の為の海外赴任など、社内転職の経験が豊富な方々もいらっしゃり、この方々は一定の安心感がある。何故なら、全く違う環境でゼロからのチャレンジをされている可能性が高いからだ。その際、成功と挫折の双方を経験されていた方が好ましい。成功だけだと天狗になってしまい「何でも為せば成る」という様な幼稚で一方的な価値観を部下に押し付けたりする。賛同する部下は今時少なく、チームを纏めるのが危ういのだ。
5) 定年後も元気で働く為に。
そうかと言って、55歳まで転職経験が無くそのまま勤続したとしても、60歳過ぎの定年以降になって、元気で働ける環境が確保できるか?という悩ましい問題もある。現実的には、75歳位まで現職で働くには、半独立か独立しないと難しいケースが多い。その為には、リスクがあるものの、55歳からの初めての転職にチャレンジするのも検討の価値がある。100歳現役時代に入っているなどと、一国の責任者が吹聴するが、少なくとも75歳くらいまでは何とか現役で、と言う時代には間違いなく突入している。55歳というのは、いろいろな意味でターニングポイントとなる年廻りなのである。
6) 心技体を再構築する。
そうは言っても、心技体の再構築を今後20年のスパンで保持できる様に準備しておかないと、なかなか難しい。60歳を超えてからでは遅過ぎる。特に体に関しては、総じて代謝力が落ちているので、筋トレ(脳の筋トレも含めて)が必須科目である。筋肉は年と共に減退し歯止めがかからない。気力は体力に寄っている。よく食べ、よく消化し、太らないのがベストだ。縮小均衡に陥らず、IN、OUTの振り幅を大きく保って健康を維持する為には、減退した代謝力を再度上げるしか方法が無い。この為の解決策は今のところ「筋トレ」なのである。55歳からの筋トレは、若い頃の様な筋肉隆々を目指すものではない。柔軟性を高め、今ある筋肉を活性化するのが目的である。特に、肩甲骨と股関節周りの柔軟性、太腿の裏表の筋肉補強が中心になる。(体の中で筋肉量が最も多い部位だからだ。) 脳トレの主体は、同時並行で幾つかの仕事をこなす事が効果的だが(料理もとても良いらしい。)、よく学び、遊び、考え、書いて、何かを創作する事だ。好奇心を失わず、何事もチャレンジを楽しむ心構えが大切である。
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