ずっと気になっていた事がある。SNSの利便性が、人の弱みや悪意を扇動する危険についてだ。SNSや検索エンジンを使うと、自分の好みに連動した付属情報が次々と表示されて泡を食うことがある。その後もそれに連携する情報が頼みもしないのに溢れ出して来る。その本人がまたSNS等で拡散し、その先で受信者が「いいね」ボタン等を押す、この容赦の無い特定情報の洪水を「当たり前」と見做してしまうと、恐ろしいことになる。
SNS上で関係のある同じ様な考えの者同士が、バブル(泡)でフィルターを作り、外の情報を遮断しがちになる現象を、「フィルターバブル」と呼び、それを拡散させて、その世界で反響し合い、他の考え方や趣向に対し集団で排斥行動を示す現象を、「エコーチェンバー(共鳴室)現象」と呼ばれている。世界的にこの現象は現れ始めていて、極端な例は、ヘイトスピーチなどにその深い関連性が認められる様だ。
GAFA(Google.Amazon.Facebook.Apple)と呼ばれるインターネット時代の覇者達の起こしたイノベーションは、確かに時代を変革させつつある。ただ、それを生み出した側とその使用者側は、全く別物である事を今更ながら認識する必要がある。相対性理論のアインシュタインが確立した量子力学の基礎理論は、核分裂連鎖反応に発展し、使う側のエゴにより原爆という殺戮兵器と化したのは記憶に新しい。アインシュタインはむしろ原発の平和利用の提唱者だった。
GAFAのもたらす価値は、利便性、ネットワーキング、情報の広域拡散性により、個人の主張を瞬時に拡散させる効果であるが、使う側のインテリジェンスにより、コントロールされる必要がある。また、集団心理による弊害もよく検証して公表し、警鐘を鳴らしておくべきだ。でないと、集団をマインドコントロールされてしまうリスクがある。エコーチェンバー現象も、作り手はこの様な負の面を最初から意識出来ていたかは疑わしい。
世の中のちょっとした情報を手軽に調べられ、購入もその場で出来る、その範囲で使っているのなら被害は少ない。しかし、自分の考え方に同調を求めて、仲間を幾何級数的に増幅させる意図を持つと大いに危険である。何故ならインターネット上の情報の、出自の不明で不確かな情報に先導され、「烏合の集」となってしまう可能性が高いからだ。本来、情報はフロー状態にあり、一旦個人がその情報を取捨選択し「考える」プロセスを経ないと知識にはならないのだが、情報の精度が低いと知識のレベルも全く当てにならないのは道理である。
この様な事は良識ある大人であれば適切に判断出来そうだが、一旦自分自身が渦中に巻き込まれると、分からなくなってしまう恐ろしさがある。知らず知らずに、自分と違う意見を排斥したり、ともすると攻撃する側に回ったりする。匿名で投稿する事が許されているのも、この現象を加速させている。この様な現象は国籍を問わず、老若男女を問わず起こり始めていることが、最近のNHKクローズアップ現代ブラスで放映されていた。
これらの現象の根本にあるのは、人は一度利便性を与えられると、それに耽溺し「自ら考える」という人間本来の機能を失って行くという傾向である。何でもインターネットを見れば大体の事は解る、という訳だ。深く理解出来なくとも何も感じない人種の出現である。学生の中には、卒業論文にインターネット上の情報をモディファイして提出する猛者も現れているという。
それに加えて、SNS上で匿名である個人を非難する、その態度の低劣さと言ったら酷いものだ。よく中学生などの陰湿なイジメも見聞きに絶えないが、日頃は普通の良識ある主婦やサラリーマンが、SNS上で突然悪意を持った集団に豹変する様は、現代社会の恥部とも言える。
こういう私にも偏見はあるが、SNSが普及し電車の中の大半がスマホに熱中している老若男女を見るにつけ、昔とは隔世の感があるのと、ものを考え大人として判断する事を諦めた日本人の行く末を危惧せざるを得ないのである。
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