欧米では、レジメの最後にReference available upon requestと記載するのが一般的である。我々エグゼクティブサーチの仕事の中に、リファレンスチェックというプロセスがある。候補者へのオファーを出す直前に、候補者の過去の仕事の評判を確認する。リファレンスとはその意味である。これは興信所的なものでは無く、クライアントからの要請により、候補者の過去の上司、部下、同僚、顧客などを候補者に挙げてもらい、その方々に我々が電話インタビューし、その結果をクライアントに報告するものだ。インタビュー対象者には該当候補者から、この様な主旨でインタビューの電話があるので宜しく、という事前の連絡をしておいて頂く。
候補者の過去の経歴には、成功も挫折もある。その時々をどの様な行動で乗り切って来たか?或いは、あの時、この様な行動が失敗に繋がった、という貴重な反省を活かして、次の段階でどう行動を変化させたか?などを確認する。リーダーシップスタイルなどと呼ぶこともあるが、苦境な時期、どの様な行動を取られたか?は、新しい環境で仕事をするにも大変参考になる。
候補者の知人にインタビューするので、候補者に取って不利になる様なことは避けるのではないか?とよく聞かれる。しかしながら、次の2点を抑えることで、その心配は無用である。一つには、Fact Baseのインタビューを基本としているので、どういう行動を取ったかに焦点を絞っていること、二つには、複数人に同様の内容をインタビューする為、何か問題があると、同じような局面で、インタビューされる方々の言動が曖昧になる。この場合、何らかの問題が存在する可能性が高く、ドリルダウンして見極めること。
気を付けなければならない点は、候補者のその成果は、どの様にもたらされ、その時のリーダーは誰だったかである。そのプロジェクトの成功は優秀な上司または部下の貢献であり、その方自身の力でない場合がある。これも自分の手柄として経歴書に記載したい、という心情的なものは理解出来るが、困った問題である。これはリファレンスチェックで大方分かってしまう。
とかく人の評価はどうしても辛めになり、自己評価は甘めになる。その際、二段階程上の上司の評価は流石に正確である。人を使うのにその眼力が必要ということもあるが、直属の上司はかなり生々しい印象があり、競合してしまう傾向がある。その上だとより客観視出来る訳だ。
リファレンスチェックと言っても、参考情報の一つに過ぎないのだが、カルチャーフィットのチェックは大変難しい。老舗の企業ほど自分達には気付かない根強い文化や特徴を持っているものだ。その中には、新たな時代の新たな成長に向け変えなければならないものと、伝統を引き継いでゆく必要があるものに分かれる。それだけに候補者とクライアント企業のカルチャーフィットを判断するのは複雑である。
これまでの意思決定のプロセスとスピード感の違い、中堅幹部のトップへの答申力、会議の進め方と所用時間、各BUの日頃の数字管理の仕方と期末に当たっての数字の追込み方、アフターファイブの過ごし方、などカルチャーと呼ばれるものを挙げればきりがない。
トップは今後の成長や改革のために多様な価値観が必要なら、思い切って文化を変えてゆかねばならない。カルチャーの衝突があった場合、手をこまねいているトップをよく見かけるが、この収拾こそ経営陣の責任である。
このカルチャーフィットも含め、リファレンスチェックで私が特に留意しているのは、コミュニケーション能力である。別名people management styleとも呼ぶことがあるが、これこそが様々なプロジェクトを円滑に進める際、軽視出来ない問題である。5方向のマネジメントがある。社内の3方向、すなわち「上司」、「部下」、「同僚」、社外の2方向、「顧客」と「業者(パートナー達)」である。
people management styleと言うと、部下の管理手法の様に考える方もいるが、ビジネス上お付き合いする5方向の人々と如何に協業出来るか、時には交渉出来るか?が重要だ。特に気を付けたいのは、五番目の「業者さん達」との付き合い方である。実はここにその人の人柄が如実に反映される。良い仕事は一人では出来ない。本当に困った時、外部の業者に助けられることは多々ある。日頃の対応なり姿勢を業者さん達は本当によく見ていて、いざという時に総力を結集して助けられる方もいれば、見向きもされない方もいる。
それぞれの得意分野で協業する事が一般化しているビジネス環境では、このスキルが突出しているのは大きなアドバンテージである。逆に個々のスキルは非常に高くとも、業者さんに必要以上に高圧的だったり、上手く協業出来ない要素を感知すると、これはクライアントに報告せざるを得ないのである。日頃から業者さんとも固い信頼関係を結んでいる方々が窮地に陥った時、業者さん達が一斉に立ち上がる様をまざまざと見たことがある。感動的な光景だった。
お互いに入社後こんな筈では無かった、という事を避ける為のリファレンスチェックだが、万能ではない事は勿論である。時代が変遷する時期には、より良いリファレンスチェックがある筈で、今後も更にその精度を高めてゆきたいと思っている。
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