NHKのシリーズ物で、毎回各スポーツの世界的なコーチを日本の中学校の該当クラブに招きレッスンする企画がある。深夜偶然にみる機会があった。今回はゴルフ企画で、タイガーウッズの幼少期を育てたルディ デュラン氏である。千葉のとある中学校の20名ほどのゴルフ部に彼が舞い降りた。男女、初心者、経験者の混成チームだ。
一週間の滞在で、ゴルフの技術指導は殆ど無く、「考え方のレッスン」なのがユニークである。今の技術のままで、スコアは劇的に縮められる。「良いスコアを出してから、更に道を極めたいのなら、技術を習得せよ」という逆転の発想である。昔青木功プロも同じことを言っていたが、当時は理解出来なかった。ゴルフの上達は、良い経験の積み重ねと創意工夫(マネジメント)であると言う。
ゴルフは次のショットまでの時間が長いスポーツなので考え過ぎてしまうのだ。最もメンタルなスポーツと言われる所以である。「成功の輪」Success Circleと名付けたノートを中学生に手渡し、ネガティヴな要素は全く無視し、良かったことだけを記録してゆく。その蓄積のデータベースが、本番で窮地に立った時、大きな力になると言う訳だ。確かにゴルフは孤独な競技で、一ラウンド約5時間の間、基本的に相談相手はいない。悪い循環に陥ると際限がない。この状態から、過去の成功体験を総動員して克服してゆこうと言うのである。特に日本人は「反省」し過ぎる。私にはこの考え方が画期的に思えた。
幾つかのユニークな試みがある。一つは、パーの再定義。パーとはプロやゴルフ上級者の規定打数であり、素人のものではない。自分のパー基準Personal Parを設定し、それを徐々に上げて行けば良いと言う。殆どのゴルファーは、何故か上級者様のパーオンを狙ってスコアを崩すのである。
二つ目に、ショットに自分で6段階評価すること。とても良い。良い。普通、ギリギリセーフ、良くない。全くダメ。の6段階である。素晴らしいのは、4番目のギリギリセーフと言う概念だ。多くの生徒が良くないと評価しているものの殆どはギリギリセーフだと言う。そして、ギリギリセーフの地点から、パーやボギーであがれる事を証明してゆく。だんだん生徒の顔つきが変わってゆく。何か人生を語っているようではないか、と私はテレビに食い入った。
三つ目に、同じ距離をクラブを変えて自在に打ったり、同じクラブで様々な距離を打ち分けてみせる。グリーン周りからウッドで転がしパーを取る。クラブ2本のみでコースを廻ってみる。クラブ選択に皆さんの想像力を動員せよ、もっとクリエイティブに自由に発想せよ、と教える。ある所で挫折しても、ゴールに至る道は幾筋もあると言う事を、身をもって体験させるのだ。
日本人にとっては、ミスの事実を見つめ分析して改善してゆく、と言う分析的なアプローチが一般的であるのに対し、ミスは記憶から消し去り、小さくとも良かったと思える記憶を積み重ねてゆく訓練である。そう、これは訓練しないとなかなか身に付かないスキルである。
マスターズを観戦していると納得できる。一流選手たちをこれでもか、と様々な試練が襲う。それを何とか4日間やり繰りする我慢大会のようだ。今年の勝者ガルシアも苦労人である、昔はやんちゃだったが、年齢と共に柔軟性を身に付け、例えメジャー無冠のままでも、自分のゴルフ人生は素晴らしい、と思えるようになったという。そしてとうとうメジャーに勝った。そういう鍛えられたポジティブさが、人生の大きな勝負を左右することはよく納得できる。
少ない打数でプレイする為に必要な事は、考え方でありクリエイティブな発想力、それとポジティブな経験の蓄積であり、スウィング論ではない、とはっきり明言する。ビジネスにも大いに参考になる。技術論も大切だが、クライアントにより良くServeする為、技術やスキルの前に考えるべき事が多い。ある程度顧客に貢献してから、より高みを目指すために技術の習得がある。
今自分に持てるもので、自分なりのゲームプランを立て、最高の成果を上げられる様に訓練せよ、と言うことである。何か今の自分に言われているのではないか、と一瞬錯覚した。
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