子供の頃、強烈に惹かれたのは食虫植物だった。戦略がそのまま形になっている。ある目的を達成する為に、どう虫達を惹きつけ、どう捉えてその後どう消化するのか、という一連のプロセスが理論的に「構造化」され適切な形に具現化されている。自然には勝てないなと思う。植物は動けないだけにマーケティングの発想が必要で、ある意味小売店と似ている。 「どんな仕組みになっているのだろう?」と構造的に考えるのは、世の中不思議な事で一杯でなので、そういう頭の使い方で好奇心を満足させていた事を記憶している。今日のテーマの副題は「物事の構造化」についてである。前回英語プレゼンについて書いたが、プレゼンでパワーポイント(PPT)を使い、自分の考えを図示する。これには得手不得手がある様だ。PPTはもともと図を描きそれに文字で解説する為のツールである。それなのにPPTに文字のみを並べる方が多いのである。図や絵を書くのは上手いのに、このプレゼンの図は不得手な方もいる。図を描く能力とは別物らしい。これが不思議でならなかった。
特にグローバルで多国籍な環境で自分の考えを伝えるには、PPTは欠かせない。この環境では、「分かり易いロジック」と「人間性」がグローバルに通用する武器だからである。何故、図を書くのが上手いのにプレゼンの図が下手なのか?よく考えてみると、自分の言いたいポイントが今一つ論理的に組み立てられず、「論理の構造化」が上手く出来ないのではないか、という点に気付いたのである。昔、コンピューターのプログラミングに「ワーニエ法」の呼ばれる構造化プログラミング手法があった。プログラミングはもともと論理的でないと出来ない。その中でワーニエ法が話題になったのは、論理の筋道が分かりやすいという点だ。職人芸の様な独自に作られたプログラムはあとから人が見ても分かりにくい。大きなシステムを作る段になると、構造化しないと難しいと言われたものである。「論理」をより具体化し洗練させると「構造化」となる。
論理構成力の問題だ。考える順序としては、
1 漠然とある考えに思いを巡らす
2 その意図を文章に纏めてみる
3 論理を整理し、結論に至る筋道を整理し抽象化し図示する、
という3つのステップを経過する。その為には、ある考えと考えがどう結びつき、階層化なり順序化され、その結果何を生み出すのか?という「物事を構造化」して考えてみる習慣が必要だ。何事にもどういう構造なのか興味を持って見つめるのである。プレゼンの図としての基本中の基本は、四象限チャートである。縦軸と横軸に対立軸を設け四つの箱をつくるあれである。納得できるチャートが描けた際には、頭の中がクリアになってゆく。但しシンプルなだけに、何を縦軸、横軸に設定するかはそのスキルを問われる。互いにMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略で、漏れなくだふりなくの意)な関係でなければならない。それぞれのエレメントが集約型なのか分散型なのか、あるいは連続なのか不連続なのか、階層化なのかそうでないのか、集合体に入るのか、対立軸にあるのか・・・などなどを考える事の習慣である。実はPPTのソフトの中に、親切にもそれぞれの状況に応じた図示のテンプレートが示されていて、PPTを最初に考え出したクリエーターの先進性に関心する。
日常生活の中でも、この「構造化して考える習慣」は意外に重要だ。人と人とのコミュニケーションや交渉や和解には、多かれ少なかれプレゼンの要素が入ってくる。仮にプレゼンを、「相手を変化させ、行動に結びつける作業」だと仮定すると、より積極的で成果を求めるコミュニケーションと位置付ける事ができる。PPTを使わなくとも、頭の中で常に構造化する訓練が出来ている人のプレゼンは簡潔で分かり易く客観性がある。その方の書く文章もしかりである。そういう人のプレゼンは図示も含め大変分かり易い循環の中にある。英語のプレゼンとなると、もともと論理的で構造化されている言語なので、分かり易くなるのは道理である。何かの技術の習得にもこの「構造化」の発想は欠かせない。例えば、仕事の習熟、英語や各スポーツ技術の習得など、スキルアップの要点と進歩のプロセスを「構造化」して、いま自分のいる地点と目標とする地点のギャップを埋めてゆく作業である。このロジック(論理)を追求し構造化し結論に導く手法は、建築現場やコンピューターや設備系など、物理や数学や化学のTangibleな世界では勿論必要であるが、Intangibleな世界、思考やコンセプト、人の感情の変化の分析は、例えば人工知能の開発、消費者の購買行動分析、うつ病の治療、コーチングなど、応用範囲は多岐に亘る。
さて、物事を論理的に構造的に見るという事が、何故出来にくいのだろう?私自身は数学も物理も落第生であり、必ずしも理屈をいつも考えている訳ではなく、むしろ感覚や感情に溺れやすいタイプである。ただ、プレゼンの図示はなんとなく出来てしまう。分かり易く伝えたい、という意欲が強いのか、伝わらなくて苦労した経験が多すぎるのか?単にプレゼンの回数がかなり多い為なのか?分からない。偏見と独断を許して頂くと、日本人の場合、プレゼンで図示が不得手なのは女性陣に多いのである。まさか昆虫を扱うのが少ないせいではあるまいが、「何故、この様な仕組みになっているのだろう?」と興味深く眺めたり、何にでも好奇心を持つ習性は男性の特質なのか。いや昨今の優秀な女性は違うのかも知れない。いずれにせよ、伝えたいエッセンスを凝縮して構造化したり、図示する事は、当たり前のスキルの様でいて、意識的に訓練しないと習得出来ないジャンルの見逃せない発想法の一つである。
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