海外に出ると今更ながら自分の英語力に落胆する。英語とはかれこれ30年以上の付き合いだが、40前後をピークに会話力は下がる一方である。弊社は46カ国70オフィスからなっており、世界会議に出るとまさに人種の坩堝である。様々なシチュエーションで相応の英語力が試される。本来、内容がなければ英語が流暢でも人は耳を貸さない。しかしながら、内容があるのに伝える技術がプアなのが問題だ。特に日本人はこの傾向が強い。ほとんどが自分が思っているよりも英語が下手なのである。
考えてみれば、ビジネスとは、ある価値や品質を顧客に提供してその対価を得るという活動である。どんなに良いものでも、タイムリーにデリバリー(提供)されないと意味がない。稟議を通す、顧客へ提案する、あるプロジェクトをスタートさせる、など様々なビジネスで最も多用されるデリバリー形態は「英語でのプレゼン」だろう。そこでこれに的を絞り、普段気をつけている10カ条を書いてみたい。
1 全体から部分へ。
Cascadeと言う言葉がある。何から話し始め、どう展開して、何に辿り着きたいか?の全体像を予め案内して話し始め、徐々に詳細に入ってゆくこと。このシナリオが起承転結になっていると尚良い。
2 YES. YES. YESから始める。
プレゼンの最初で質問攻めに会い、沈没するプレゼンターがいる。最初の3枚はYES.YES.YESで始めるのが鉄則である。これで波に乗る。役員や顧客の権限保有者達は多忙でせっかちな事が多く、短時間で気持ち良く聴き、決裁したいのだ。
3 具体から抽象へ。
抽象的な概念を英語で表現出来るのはかなりの熟達者である。我々は具体的な身の回りのことから話し始めるのが良い。ある事象を抽象化、一般化するのにチャート(図示)がプレゼンではよく使われる。一目で分かるプロ級のチャートが書ければ良いが、具体例を挙げてその後に抽象化し、この傾向を一般化すると格段に分かり易い。
4 適切なエピソードの選択。
話やプレゼンが上手い人は、エピソードの選択眼、センスが優れている。前段の具体から抽象へと展開する際、このエピソードの選択により、膝を打つ様な議論展開が可能となる。
5 Punch Lineを明確に。
最も強調したい勝負のページが到来する。これをPunchLineと呼ぶ。この場面では、相手に繰り出すPunchの強さや質を如何様にも工夫する必要がある。この場面で観客が眠そうならそのプレゼンは失敗である。
6 時間配分: プレゼン4 割、質疑応答6割。英語の場合、プレゼンそのものより、質疑応答を重視する傾向がある。観客も積極的に参加し結論を出す事を求められるからである。質疑応答では、質問の意図を簡潔に相手の前で「繰り返し」確認する事。これがスムースに出来る事が、英語があるレベルにある証左となる。
7 反論する: 一旦認め「一方で」。
反論を試みる際、相手の主張を一旦認めその上で「一方で・・・」という姿勢はグローバル環境では必須である。そういう考え方も確かにありますね、と認める事で、相手がこの会議に何らかの貢献をしようとしている、という立場をサポートする事が出来る。これは何度でも繰り返し言わねばならない程重要である。
8 結論の導き方:
プレゼンターは基本Neutralである事。三択に絞り込みそれぞれの功罪を客観的に評価し、その中から一つのRecommendationとその理由を明示するのが、決裁者にある課題の決裁を迫る際の基本的な原則である。
9 唯一の免罪符: Risks
リスク要素をプレゼンの最後に盛り込むことは一般的である。というか、これがオフィシャルな場面での唯一の免罪符となる。このプレゼン内容や結論が有効な諸条件を列記するのだが、特に影響の大きいと思われる要素を抽出して明示することで信憑性が高まるというメリットもある。
10 ロールプレイは必須:
貴方が英語力が十分であったとしても、本番前に本番に近い環境で相手を立たせ、時間を計りロールプレイし、結果のフィードバッグを得ることは、プレゼンのパフォーマンスを挙げる為には欠かせない作業である。私の経験ではやらない場合と比べ劇的なパフォーマンスの改善が見られるものである。
誰しも顧客からの「信頼」を得て、良い仕事をしたいものだ。信頼を得る為には、日々の行動に裏付けられた納得感の積み重ねが求められる。いきなり「信頼」を得ることは難しい。私見だが「信頼」に至る3つのステップがある。「理解」→「納得」→「信頼」という心理的な変化である。
ある新規案件開拓を想定してみよう。一度のプレゼンでは平均的な理解度は30%程度と言われている。何回か手を替え品を替えて説明して行き、「納得」してもらう。しかしながら、これでは顧客は稟議書を書いてくれない。「納得」から「信頼」への心理的変化があり、ようやく顧客は自分の立場を賭けて、唯一のベンダーを推薦する稟議書を書く。ベタな話だが、信頼に至ると顧客の肩に触れることが出来ると言う。プレゼンは大事だが、人を行動たらしめる為には、この「3ステップ」の醸成が必要という原則を、改めて明記すべきなのかも知れない。
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