プロジェクトとは与えられるものではなく、獲得し実行責任を自ら負うものかと思う。本来、自分で苦労してプランを書き承認を得たものでないと、そのプロジェクト全体のマネジメントなどは出来ない筈だ。従って、ビジネスプランの作成者がオーナーとなって、実行まで進め完遂するのが最も望ましい。大組織で分業化すると、プランを作る人、それを実行する人に分かれ、一貫したオーナーシップが見当たらない現象が起こる。ここに、プロジェクトマネジメントを難しくしている大きな要因がある。プランのオーナーが不在で、様々な関係部署からの代表者からのクロスファンクションチームの人々は、他人事で責任の所在が明確でないケースが多い。しかるに、多くのプロジェクトは、実行が既に決定され、ブランの立案責任では無く、遂行責任のみを問われる傾向が強い。
拙い私の経験を披露してみたい。IT関連の前職では、ブロジェクトマネジメントで苦い思い出が幾つかある。一年半越しの全国オンラインシステムで、私は営業側の統括責任者という立場だった。ブロジェクトのラストワンマイルという時点で、システムの統括責任者が退職した。間も無くその下のマネージャー(システムの中心人物)が本番へのプレッシャーに押し潰され出社しなくなった。考えてみると、システム側の人々に「やらされ感」が強く、仕事本来の面白さを自ら感じにくかったのだろう。
探してみると、彼の奥さんはいつも通り出勤したという。システム担当役員と共に横浜を探し廻った。彼は横浜の港の見える公園でブランコを漕いでいたのである。軽い心身症になっていた。嘘の様な本当の話しである。そんな時、立ち上がり窮地を救ってくれたのは、社内の者では無く外部の業者さん達だった。下請けでプロジェクトに長く関わり、システムを知悉していた為、引き継げたのである。業者さん達との日頃の信頼関係の蓄積の大切さが身に沁みた。結局システムは、カットオーバーの期限から6時間遅れで動き始めた。請求処理が遅れ、顧客の担当専務の辞表騒ぎにもなったが、何とか事なきを得た。
プロジェクトマネジメントには、様々なトラブルが付き物である。人、物、金、時間を最小限で最大の効果を挙げようとするからである。振り返ってみれば、そのトラブルの殆どは人災であり、かつ想定外のトラブルよりも、事前の準備を周到にする事で、未然に防げるごとが多いことにも気付かされる。トラブルが起ってしまったら、逃げない事。これは様々な経験から学んだ貴重な教訓である。こういう時にこそ、試されるのだ。逆に言うと、トラブルは人との信頼関係を再構築出来るチャンスでもある。残念ながら、こういう有事の際、一目散に姿を消す人がいる。みすみす人との信頼を紡ぐチャンスを失っているのである。
プロジェクトで幾らかの失敗や挫折を経験すると、次は同じ轍は踏まぬ、と誰もが考える。私にとっての最大の教訓は、プラン段階では、プロジェクト全体を通して、予想出来る最大の難関(Critical Pathという)を予め予測し、先手を打ってリスクを最小にしておくこと。実行段階では、社内外の様々な人々を巻き込んでゆく過程での、コミュニケーションの取り方、ひいては信頼関係の構築の方法であった。人のマネジメントは、究極、人とのコミュニケーション方法であり、それには5つの方向性がある。顧客(ステークホルダー)、上司、部下、同僚、業者(パートナー)の5つである。顧客や上司に対するコミュニケーションに気を使うのは当たり前である。しかしながら、特に、社外の業者さんやパートナーの人々との日頃のコミュニケーションのあり方には、反省させられる点が多かった。彼らはじっとこちらを注視していて、信頼の置ける人物かどうかを常に見ているのである。15年間続けている現在のビジネスでも、優秀だな、と思われる人々は、皆それぞれに、業者さんのマネジメントの達人であった。
業種業態を問わず、どの仕事であっても、ビジネスマンが求められる重要なスキルの一つが、プロジェクトマネジメント力である。プラン立案、承認取得、プロジェクト進捗管理、人を巻き込んでのマネジメント、危機対応などなど、様々な能力が要求される。また同時に、それはなかなか奥が深く、経営や人生の滋味やヒントがたっぶりと詰まっている。苦労を共にし、プロジェクトを成就した時の仲間達は、人生の友になる事もある。また、若い人々を育てるまたと無い「ゆりかご」でもある。座学では解っているつもりでも、成功や手痛い挫折を具体的に経験してみないと、身につかないスキルがある。成功、失敗を問わず、是非良いプロジェクト経験を積んで頂きたいものだ。
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