ある案件で、コンビニエンス・ストア業界の経営陣数人に会う機会に恵まれた。それぞれ、業界売上トップ、第二位、第三位の会社の現経営陣であり、面白い事にかつてトップ企業におり、現在第二位、第三位の会社に在籍していたり、その逆だったりする方々で転職経験が皆無の人はいらっしゃらなかった。第三位を基準に比較してみると、売上規模は、1.7 対 1.4 対 1.0 の比率に対し、営業利益は、4.0 対 1.4 対 1.0であり、純利益に至っては、6.0 対 1.4 対 1.0という比率となる。(平成23年2月期) 第一位の会社の収益性がダントツであることが判る。二位と三位は売上規模の差がそのまま収益率の差になっているが、一位の企業の収益率差は売上規模とはリンクしていない。我々からみると、失礼ながら同様のサービスを提供しているかの様に見えるが、経営的には圧倒的な差があるのである。大変興味深く、何か秘策があるのか?何故こうなるのか?という質問をそれぞれの経営幹部に伺ったところ、皆さんから共通して出てきた言葉は、「実行の徹底度が異なる。」とのことだった。それぞれの会社に2社以上在籍経験のある方々の意見なので、信憑性がある。
我々も様々の企業を見て来て、「戦略」がどれ程優れていようと、「実行力」の差が企業力の差になる事が多い事は経験的に知ってはいるつもりである。多少、ボンクラな戦略であっても、徹底してそれを実行できるか、継続できるか?今あるリソースをどれだけ使い尽くすか?により、優秀な戦略を立て、実行力の弱い企業を上回る事ができるのである。しかしながら、これほど顕著な事例が身近にあることは大いなる驚きであった。
「実行の徹底度」といっても、コンビニの場合、日々の細かなルーティンワークの積み重ねである。フロントで売上に対する接客・接遇や各種サービス、店づくり、バックヤードでの商品の仕入れ、売れない製品の改廃や陳列技術など、本当に細かい作業の連続であり、「地道なルーティンワークの徹底」という見方が出来る。8000店舗から10,000店舗に及ぶ組織なので、その徹底の仕方には独特のノウハウがあるのだろう。
さて、翻って我々コンサルティング業界の中にも、戦略立案から実行に至るプロセスがあり、その間に様々なルーティンワークが介在している。我々の仕事の職掌として、コンサルタント職とリサ―チャー職及びアドミニストレータ職という3種の仕事が存在する。とかく我々コンサルタントは、候補者の探索戦略の立案や、顧客や候補者との接点に関するデリケートな部分を担い、たしかにクリティカルな部分ではあるが、探索はリサ―チャーに、アドミはアドミニストレータに任せてしまう傾向が強く、プロジェクトが渋滞した時に「野に」降りて行って具体的なサポートが出来るかどうかがチームの指揮やパフォーマンスに影響するのである。職掌分担は重要ではあるが、そのチームの人員を使い尽くし、職掌の隙間を埋め、プロジェクトの活力を取り戻させるのはリーダーの役割である。特にリサ―チャーやアドミニストレータに、彼らの仕事がフロント側(顧客や候補者)にどう貢献しているのかをフィードバックし、臨場感をキープすることが出来るかどうか?は、大変重要であり、それこそが利益率やパフォーマンスの改善の鍵なのだろう、と最近気付き始めている。
一般論として、どの様な仕事であっても、一見、生産性の高いと思われる仕事のみに集中することこそ、私の仕事であり、ルーティンワークを軽視する経営陣を見かけることがあるが、これでは人心を掌握することは難しく、あるスパン(期間)で見て行くと必ずしも成功しないケースが多いのだ。これは、自分が活躍しておられるのも、細かい、地道なルーティンワークをこなしてくれている人々の御蔭であることを「身に沁みて」判っていないという幼稚性を示しているに過ぎない。何故なら、組織のサイズを小さくしてみると、ある人が体調がすぐれず休めば、即ルーティンワークをこなさなければならず、それは顕著に現われる。所謂大企業に長年勤めた方でも、途中で海外へ赴任して苦労したり、子会社に転籍してある「小さい組織」の成り立ちを考える機会に恵まれれば判るのである。
その際、重要な点は、「ルーティンワークの地道な徹底」と、その中にこそ、「本来の改善」の余地が残されている事を発見し愕然とすることなのである。実行段階にはこの様な微妙な事が隠されていた。「自分は何も知らなかったのだ・・・」この内省が経営陣にとっては、大変重要で、「私は高級な仕事をしているから、とてもそんなくだらない仕事は出来ない・・・」という態度は未だあちこちでみかけるのであるが、これではリーダー失格である。「現場に(野に)出て行って、真実を知る」、それを経営サイクルに巻き戻して戦略を修正する、多分、コンビニ業界第一位の企業はこのサイクルを誰よりも速く、正確に、地道に、日々継続しているのだろう。
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