シングル・コントリビュータ(Single Contributor)とは、「個人としての貢献者」という直訳だが、ここでは、「自分にとっての顧客に着実に価値を提供できる個人」という意味で使っている。世の風潮は、チーム力が求められ組織力とマネジメント力に話が傾きがちだ。リーダー論も盛んである。しかしながら、時代を超え、ビジネス環境、組織、企業の大小、成長ステージなど多くの外部環境が変化しても、いつも変わらない価値、それが「個々人の貢献」である。組織力とは所詮個人の力の総和であり、個人のパフォーマンスを無視して組織力が存在する訳ではない。個人が個人の出すべくパフォーマンスをしっかり具体的に出す事が「幹」であり、それらの周りの環境は「枝葉」に過ぎない。いつの時代もどういう経済環境でも、物事の順序がそういう順序なのである。シングル・コントリビュータとしての実績を示し、その仕組みを自分のものにしている仕事人は、どの時代でもどんな環境でも求められる人材なのである。この方々は勿論リストラとは無縁である筈だし、仮に外へ出て環境が変わっても活躍していけるのである。
数多くの候補者と面談していて、ご自身の過去の転職歴とその理由に話が及ぶ。その時、不具合な事の理由をすべて廻りの環境のせいにする方がいる。自分の内省の吐露がない。事柄の失敗には、よくよく考えてみると、周囲の雑音に惑わされ個人の果たすべき貢献、すなわち「自分にとっての顧客に判り易い価値を提供する事に注力出来なかった」、「顧客への奉仕」が不徹底であった、という要素が非常に多いのではないだろうか?これを「球際から目が離れる」とも言う。
またシングル・コントリビュータとしての力を発揮する際、数多くの優秀な方々に共通する能力がある。それはコミュニケーション能力である。なんだ・・・と一見陳腐ではあるが、実は
仕事のオペレーショナルなスキルなり、プロジェクト・マネジメント力なりは勿論大変重要なのだが、当たり前過ぎてこの能力が不十分な事に気付かない方も多い様である。一人では仕事は出来ないのである。仕事でのコミュニケーションには大きく5方向あると考えている。部下、同僚、上司、顧客、業者(パートナー)である。社内外のコミュニケーションという時、見落としがちなのが最後の業者とのコミュニケーション力である。大変優秀で感銘を受ける候補者は、ほぼ100%例外無く、この業者とのコミュニケーション力に長けている。一見、見下ろしがちな立場の人々との謙虚で丁寧な関係と信頼を維持している。本当に困った時、意外に多くの場合自分を助けてくれるのは、この業者やパートナーの人々である事を身にしみて体得しているのである。この方が困っていると聞くや、複数の業者が「よし、判った!」と一斉に動きだし、その方を救う場面に遭遇した事がある。その方の人間性への洞察力の深さを見る様で感銘を受けた。
各人が自分にとってのそれぞれの顧客に集中して奉仕する時、組織は最大限のパワーを発揮する。それぞれの顧客とは、Value Chain(価値連鎖)での自分にとっての後工程の事を指している。チームワークの名のもと社内でのコンフリクトが個人の顧客へのフォーカスをスポイルしてしまう事は最も警戒すべき点である。自分にとっての顧客を認識出来ない事は実は意外に多く、リーダーの最初の仕事は、この認識の徹底である。リーダーの第二の仕事は顧客への奉仕した者に対する皆へのRecognition(認知)である。自分にとって業者が実は顧客だったという事も有り得る。この識別にリーダーは繊細かつ機敏、また行動は迅速でなければならない。ビジネスのパフォーマンスへは勿論であるが、自分の顧客に評価され、自分を今日も待ってくれている・・・という以上の遣り甲斐は無いからである。シングル・コントリビュータが働き易い環境を整えるのがリーダーに課せられた役割である。
今日は当たり前な事ばかり書いてしまった。(笑)当たり前の事を当たり前にこなす事が出来れば、人生難しくないのだが・・・
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