近年の分業化と人の教育には難しい問題が含まれている。分業化により専門化したスキルは必須だが、全体プロセスの中でのその部署の役割をしっかり把握しないと「仕事の連携」が取りづらくなる。新人社員を長年かけて他部署を経験させながらハンズオンで教育してきた日本の従来の仕組みは、次第に時代のスピード感とグローバル化による多様性の出現に対応しづらくなった。そこで即戦力となる中途採用による多様性の確保が近年10年の潮流となっている。だからと言って専門性を中途採用社員にいきなり任せようとすると、その企業独自の仕事の基本動作や所作、仕事への価値観などの違いによるギャップが埋まらないこともある。
歴史を辿ってみると、近代から現代への流れの中で、大企業の大量生産と効率化の必要性から「仕事の分業」が生まれ、それに伴い組織も職制的に分かれ構造化して発展してきた。ホワイトカラーと言われる新しい人種の発生もこの時期である。それ以前の第一次・第二次産業における商売の形態では、仕事の一連のプロセスを個人が一通り経験する事で仕事を覚えてゆくしか方法が無かった。個人商店のトップは、フロント側の営業活動から、バックオフィス全般(購買・調達、製造、品揃え・出荷ののプロセス、経理、人事、総務など)までをこなしていた。この為問題が起こった時の対処のポイントも把握し易かった。現在の仕事の分業による専門化によって、フロント側とバックオフィス側に細分化され、そのそれぞれの専門性の中に「戦略とオペレーション」という2つの要素に分かれていった。そういう時代背景の中で、ピータードラッガーの「マネジメント」という有名な書物に、ビジネスの究極の目的は「新しい顧客の創造」であるという斬新な発想が提唱され、大組織の中でも戦略とオペレーションは一体のもので、分断化された組織を一体にする為のマネジメントスキルやビジョンの有無、それを実現する仕組みが考案されて来た。日本ではその十分な研究がなされておらず、未だ形だけ真似ている傾向が強い。
一方、今日では「スキマバイト」と言われる更に細かい仕事を斡旋する企業が急成長を遂げている。企業側も中途採用する際、正社員採用のリスクを避け契約社員にする傾向が強まっている。この様な環境の中での人材の教育とは如何なるものか?これに在宅勤務というコロナ禍を契機に一般化されつつある働き方の問題も追い打ちをかけ、ますますハンズオンでの教育が困難となっている。このビジネスに長年従事し、この問題は人のの教育や仕事のスキル醸成の危機であるばかりか、広い意味で国力の問題にも深く絡んでいると危惧している。
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