良く見かける横文字は、その言葉が命名された瞬間に一人歩きし始める。各人各様のプロジェクトマネジメントが闊歩している。
我々のビジネスでは、候補者の「その力」の有無を問うことが多く、意外にも応用範囲の広い重要なスキルである事がわかる。だがその優劣の判断は大変難しい。ただ、3ヶ月ほど実際に仕事をしてみると、その力は歴然となるところが興味深い。先日もある求人仕様に求められるスキルを顧客とじっくり話し込む機会があった。その結果、業界知識や営業実績や海外赴任経験などよりも、このプロジェクトマネジメントのスキルがその中心軸にないと難しい、という結論となったのである。世の中にプロジェクトマネジメントスキルが完璧という人はほとんどいないだろう。それ程、複雑で重要なスキルなのである。人にはそれぞれ、プロジェクトマネジメントにもう少し工夫があれば・・・という苦いエピソードがある筈だ。小職も30数年のビジネス経歴の中で、振り返るのも嫌な思い出があるのである。その成功や挫折の経験を通して、プロジェクトマネジメントの基本セオリーを改めて学ぶと様々な気付きがある。という訳で、年初に再度プロジェクトマネジメントを考えてみようと思った。
プロジェクトマネジメントは、以下、大きく5段階程度のステップに分けられる。
①プロジェクトプランの立案
②プロジェクトプランの発表と承認(予算化)
③プロジェクトプランの実行体制の確立
④プロジェクトの実行と管理
⑤プロジェクト終了とレビュー
まず求められるのは、①のプロジェクトの企画力である。大きな意味では、ビジネスプランの立案能力である。その企画が具体的で詳細に展開出来なければ、全体スケジュールや必要人材とその投入のタイミングが判断出来ない。ひいてはプロジェクト全体のコントロールは覚束ない。そのベースとなるのが、情報収集能力だ。経営者(事業)が求めているものを正確に理解する。顧客の潜在的なニーズを掘り当てるなど、求められるコア分野は勿論だが、その周辺情報を、好奇心を持って、汗をかき現場に入って拾い上げると、情報の質や深みが違ってくる。それが立体的で迫力のあるプロジェクトの企画書となる。
②の承認・予算化段階である。大きいプロジェクトとなると、複数の部署や責任者を巻き込むことになる。企画書は論理的でシンプルで分かりやすい、が基本である。でないと、経営陣からの承認も取りにくいし、実行段階で皆ついて行けない。よく練れていないプランは例外なく複雑であり、理解しにくい。シンプルで判り易いプランとならないのは、徹底的に練り込んでいないからである。なぜ今この時期に関係部署の協力を得て、コストをかけこのプロジェクトを完遂しなければならないのか、それぞれにどういうメリットがあるのか?が明確になっていなければならない。プロジェクトの全体スケジュールは、チャレンジがあるものの、達成可能なギリギリの線でのせめぎ合いとなることが多い。この段階での一つの免罪符がある。それは想定されるリスクを予め列記しておくことである。そのリスクは致し方ない環境条件もあるが、工夫によっては事前に避け得る場合もある。このリスクの記載が無いとプロジェクト成功への信憑性も薄れてしまう。
③の実行体制の確立である。それぞれの部署からメンバーを集うことになるが、部署の利害関係が衝突する場面である。どこの部署も優秀で売上・利益貢献の高い人材は出したがらないものだ。利害対立を超えて協力し合えるかどうか、のポイントは高いVISIONがあるかどうかである。損得を超える為に皆の目線を上げる必要がある。プロジェクトリーダーのリーダーシップや人間性が問われる時点である。
④の実行・管理でのプロジェクト管理を狭義のプロジェクトマネジメントと呼ぶこともある。その管理手法は様々な本で学ぶことが出来るが、前述の如く、ある成功や挫折の経験値のある者が基本セオリーを学び直すのが最も効果的である。プロジェクトの実行段階では、各役割分担とその進捗をレビューする何等かの統一した手続きが必要である。これをプロジェクトメンバー全員に徹底する。この際、プロジェクト全体を通して、最もリスクが高い要素や時期を如何に事前に想定出来るか、が成功の鍵を握ることが多い。これをCritical Pathと呼ぶ。想定されるCritical Pathに対し、事前に様々な対策を打っておくことが肝要である。多くのプロジェクトは、人がいない、予算が無い、期限が限られる、皆の足並みが揃わない、想定外のトラブルなど制約条件に満ちている。ここにプロジェクトマネジメント力が必要とされる所以がある。
⑤のレビューだが、これがされないケースが多々あるのは大変勿体ない事だ。成功の場合はやり易いが、実は失敗にこそ珠玉のヒントが詰まっているものである。あるプロジェクトで、ビジネスプランを立て、その承認を取り、ぎりぎりのコスト、人員、リソースの範囲でSmall Teamを作り、期限までにある目的を達成する。その小さな成功(Small Success)を担保に、それを組織に横展開してゆく。これは会社が新規事業を立上げする時、よく使われる手法である。プロジェクトリーダーは、所謂「小さな経営」を任されることとなり、経営陣は影となり、時には表舞台にたってそのプロジェクトをサポートする。実はこれは次期経営者を育成する際、最も効果的な「ゆりかご」となる。従って、重要プロジェクトの成功者(時には失敗者)をより大きな事業の責任者に昇格させる訳である。昨今は時代の変節期でもあり、新しい事業を国内外に展開してゆきたい、またはそうせざるを得ない企業は数多い。そういう意味ではプロジェクトマネジメントの優劣は、企業の盛衰を左右するといっても過言ではない。
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