我々Executive Search業は、人材の探索とプレースメントにフォーカスしている様でいて、実は80%~90%の作業は人材、組織に関するコンサルテーションである。従って、確かに実業では無く虚業であるが、なくてはならない虚業ではないか、と思っている。
最近よく一流のコンサルタント会社のシニア人材で、実業経営者などのオポチュニティを探している方々にお会いする。何故、実業なのかは、彼ら彼女ら自身がよく知っている。提案から実施フェーズの序章を見たか見ないかで、その顛末を見ないままに次のプロジェクトに向かわなければならず、提案したことの最終責任を取らず、プロジェクトを転々としている感が拭えない・・・実業で自らリスクと責任をとり、その成果なり失敗なりを実体験しないと自分にとっての成長にならないのではないか?と思われているからである。しかしながら、いきなり実業の経営者が出来る、と信じているコンサルタントが多く、時々驚くことがある。
さて、12年間このビジネスにいて、経営コンサルタント一辺倒のキャリアの方々が、いきなり実業経営者として成功する確率は非常に低いと言わざるを得ない。それは何故か?簡単な例で言うならば、「タイガーウッズの名コーチだったプッチーハーモンが、果たしてマスターズに勝てるか?」という事である。経営の実戦には、かなりの不確定要素が複雑に絡んでいて、ゴルフの実戦に似ている。運不運も当然ながらあちこちに点在している。自然環境も時として決定的な障害要因になる。すべてが自分のミスという要素が強い競技なので、ストレス耐性なり、自分のモチベーション力が重要で、悪いながらスコアをまとめる技量が求められる。勿論、コース設計者の意図を組み、自分の強み、弱みを加味したコース・マネジメントは最も重要である。特に、経営の場合には、多数の人間に方針を伝え、モチベートして難局を乗り越えてゆかねばならない。自分でやってしまった方がどれだけ迅速に品質高くパフォーム出来ると思っても、「人を使って」あるゴールを達成するのである。
経営は実に奥が深い。理想的には、様々な業種、様々な成長ステージの会社を幾つも経験し、プロフェッショナルと呼ばれる経営者層がいて、案件によって経営者データベースから数人抜き出し、その企業とのカルチャー・フィッティングを考慮して選抜するのが最も良いのではないか、と考えている。
小職は事業再生の各種プロジェクトにも絡んできた経緯がある。第一ステップとしては、やはり事業のリストラクチャリングである。まず利益の出る筋肉質な経営体質への変換である。第二ステップとしては、今後の成長戦略である。第一ステップは比較的パターン化出来るそうである。しかしながら、成長戦略となると、コンサルタントも手を焼くケースが多い。第一ステップは比較的社内の問題を優先してゆく事が可能であるが、第二ステップは、社外環境やステークホルダーとどう向き合い、競合他社との差別化あるいは新しいビジネスモデルへの変換など、幾何級数的に不安定要素が増加し、打ち手が複雑になる。どういう打ち手をどういうステップで踏むのか?その時にキャッシュは持つのか?手順前後は無いのか?その時々の迅速な意思決定の連続である。ビジネスモデルを変革するという事は、全く新しい競合相手が出現する事も十分あり得る。
「経営とは、事業を継続的に成長させる事である。」とは何度か目にした言葉ではあるが、小職は恥ずかしながら最近になって、その意味の深みを知った。何故、継続的に成長させなければならないか?という事である。あるきっかけで、老舗の大企業のシニア・マネジメントのプレースメントの案件を担当した。その企業はリストラを含め、あらゆる施策を打って来た様だが、ただ一点、次の成長の一手を打つことが出来ず、新しいシニア・マネジメントを招こうと言う事になった訳である。中高年層をリストラし、若年層、中年層には給与も職責もそのままで仕事だけが増えた。先が見えない苦労はやはり誰にとっても厳しい。なかなか夢を持つことが出来ない。そうかと言って、社内の先輩に自分の目指すべき人材がいる訳ではない。大企業なので職掌が分断されており、40歳前後になっても、専門職でGM職、所謂、利益責任を負った経験などない。転職しようにも、自分にどの程度「外で通用するスキル」があるのかが判らない為、思い切れない。・・・という様な環境であった。
若い世代に、チャレンジのチャンス(ポスト)を与え、最初はストレッチもあるが、その中からあるものは成長し次世代を担えるマネジメント候補が出現する。この人材のマネジメント・サイクルを社内で再現できない、ここに「事業が成長しない」ことの最大の罪があるということである。そういう企業ばかりでは、次世代が育たない、すなわち、大きな意味で国の経済が滅んでゆく、という事に繋がってしまう。今の日本はほぼそれに近い状況ではないか、とも思う。
私共がお会いする候補者の80%は「経営者」になりたい、という人材だが、「何故、経営者になりたいのですか?」という小職の質問に、これは・・・と膝を打つような答えが出来る人は本当に限られる。望んで経営者が務まる程、世間は甘くはない。企業の社会貢献には「雇用を創出する」と同時に「次世代を育てる」という大きな役割が含まれている。だからこそ、優秀な経営者が必要なのだ。それを引っ張る、事業を継続的に成長させ、様々な具体的な打ち手を持っている経営者が今ほど必要な時代は無い、と思いこの仕事を続けている。
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