シリーズ2 「心に貸し借り勘定のバランスシートを持つ」ということ
-礼儀正しさは最大の攻撃力である。
今回のテーマは、人と人との間における「貸し借り勘定」というバランスシートに関して書いてみたいと思う。以前から、優れたリーダーや経営者にお会いする中で、何回となく感じてきた事。それは、人とのお付き合いの中で「貸し借り勘定」というバランスシートは厳然と存在し、心ある方々はそれぞれにそのバランス化に腐心されて来ているという事である。ビジネスかプライベートかは別として・・・。これは、「あの人には借り勘定がかさんでいるので、早くこれを埋めないとまずい!」という様な事で、意外に瑣末な事でも本人は結構気にされている。ビジネス上のクライアントとのお付き合いは言うに及ばず、社内の関連の人々、あるいはパートナーや業者の方々やプライベートな仲間、家族・親戚や恋人関連まで、人と人とのお付き合いは広範に及ぶものである。そのそれぞれにバランスシートがあり、これを一々バランスするのには結構な労力とマネジメント能力が必要だが、優れたリーダー程、この広範なマトリックスに目を馳せ、迅速にバランスを取る事に大きなプライオリティを置いている様な気がしてならない。
何を貸しで、何を借りと看做すか?それはその人の価値観が大きくものを言う世界である。ビジネス上の貸し借りは比較的判りやすいが、「一見、瑣末な隠れた借り勘定」が判りにくく、この配慮が出来れば一流と言えるのかもしれない。事例を幾つか挙げてみよう。
・自分が叱った部下のフォローを思わぬ人物がしてくれていた。(借り一つ)
・最近元気の無い部下の状況を秘書がそれとなく伝えてくれた。(借り一つ)
・アポイント時間に少し遅れた。(借り一つ)
・行きつけのレストランのマネージャーが、顧客に対し配慮ある対応をしてくれた。(借り一つ)
何か「借り」を感じた場合、そのお礼や返礼のタイミングは、勿論、早い方が良いであろう。
これに関しても、リーダーであればある程、トップに近くなればなるほど、まさに「電光石火」という表現がぴったりで、その「お礼の応酬合戦」を見ていると、迅速性を競った競技を見ている感すらする。多忙な事が余計そうさせるのかもしれない。その時点で判断し行動できるものはしてしまうという習慣がついている事もある。また、「タイムリーかつ適切に感謝の気持ちを伝える」事に遠慮も迷いも生じない。気が付いたら、即、実行できるジャンルである。
ある中堅企業の経営者は、いつも「ありがとう」のメッセージカードを携帯している。銀座の某文具店の特注で、名刺大で少し言葉を書き添えるスペースがある。なかなかしゃれている。顧客との付き合いにも時々使われるが、社内向け、業者の方々、あるいはプライベートな用途がほとんどである。その場でお礼を言いそびれた時など、大変重宝しているそうである。ちょっとした事のお礼にこのカードに一言を添えてそっと机に置いておく。この方にとっては、「お礼の気持ちを表すのは、一つの行」である。特に一見、日頃当然だと思ってしまったり、気が付きにくいサービスや気働きに対して、お礼の気持ちをその場で表すというところが凡夫にはなかなか出来づらく、本人にとっては「行」の一つなのだそうである。多分、この様な経営者のいる会社の顧客へのサービスは徹底しているであろうし、万一経営難に陥った際も、社員一致団結して苦境を克服してゆくのだろう。容易に想像できる。確かに優れたリーダーは、業者や部下のマネジメントにこそ卓越した方が多い。「あの人の為だったら」と思わせる人間的な魅力がある。
ここに、「礼儀正さは最大の攻撃力である」と言われる所以がある。
あらゆるリーダーは、人の上に立ち、上る山を指し示し、情熱と戦略と胆力を持ってこれを登りきろうとする。ただ、皆の信頼感を醸成し団結させてゆくには、人間性に対する深い洞察力と日頃の行動が必要である。「貸し借り」バランスや「礼儀正さ」は、我々エグゼクティブサーチの経営者人材に必要なスキルセットには表しにくいが、必須な素養であろうと思う。
最近のコメント