「意識は間違いなく脳から発生する。それなら脳で秩序活動が起こっている分、無秩序が脳内に発生するはずである。脳はその無秩序を片付けなければならない。乱暴に言えば、だから寝るのだと言う事になる。その睡眠の間に脳は忘却機能を作動して、溜まったゴミを捨て脳内を整理整頓する。」(養老孟司氏のエッセイの中の「睡眠と忘却」より抜粋)

自然界にはエネルギー保存に対するバランス作用がある。エントロピー増大の法則は、ざっくり言うと「物事は放っておくと乱雑・無秩序・複雑な方向に向かい、自発的に元に戻ることはない」というものである。人間は賢しらに秩序(都市化、近代化、平和化、富裕化、IT化、便利化など)を増やそうとするが、それと同じ無秩序が発生し始めて同量で均衡するまで続く。（勿論ある条件下で）地球温暖化はこの典型である。このエントロピー増大の法則が熱量だけで無く一般に適用され始めたたのは近年である。養老先生の「睡眠と忘却」もこの法則に則っている。

分かり易く拡大解釈すると、人間が善かれにと必死になっている事が、同じ量の悪でバランスされているとも解釈しうる。人の老化もエネルギーを使うたびに活性酸素などのごみが溜まっていって老化が進みやがて死に至る。地球上の歴史は、生命の循環によるエントロピー増大との闘いの歴史である。生物は同じ原理で死を免れないが子孫を連綿と繋いでゆくことで抵抗する仕組みなっている。こう言う時に「哲学のような」鎮静剤が必要で紀元前から形而上学（哲学）が発展してきた。私の昔からの大きな疑問は、ソクラテスの哲学は今も立派に通用し、紀元前の時代から人間は精神的発達の蓄積が出来ないで一回性の人生を生きている、ということである。