企業にとり、VisionやMissionの設定や時代に合った見直しは大変重要だが、一部抽象的で、より具体的な「行動規範」の様なものに落とし込む必要性が感じられる。日頃の行動や方針もこれに照らして内省し、新しい方向性を模索出来るものになれば望ましい。皆が分かり易く納得性のある行動規範があり、それを社員に浸透させている企業は強い。
当社の場合も、行動規範は以前からずっと考えていて、なかなか纏まらないでいた。そこで、年一回のオフサイトミーティングの主要テーマの一つに掲げ、全員で練り込もうと考えたのである。
まず社員が相手への価値提供と思えるものや行動を事前にピックアップし、オフサイト会場に持ち込む。候補者や顧客に対しては勿論、社内のメンバー同士との価値の提供を分かり易い言葉で各自まとめてもらい、それを皆でシェアし分類する。それを議論の中で本質的にはどうしたいのか?に集約してゆく。その過程で我々が何故この仕事をしているのか?といった根源的な問いにも多くの時間を割き話し合うことが出来た。これは副産物である。
次にそれらを踏まえ、更に言葉を煮詰めてゆく段階である。行動規範とは、そこで働いている者の姿を、誰にも容易に想像できるものだ。出来るだけ分かり易く、強くシンプルな言葉で、かつ簡潔にまとめる必要がある。一つのチャレンジとして、語呂の良い3つの言葉で言い表わす事に挑んだのである。言葉を紡ぎ出すのには、我々の想像の何倍かの労力が伴ったが、その結果出来たのが、「誠実」→「勇気」→「変化」だった。
行動規範というと、GEのCore ValuesやJ&Jの我が信条などが有名だが、少々長いので日頃机の前に貼って覚える必要が生ずる。日本企業で良いものがないか調べていたところ、糸井重里氏の経営する「株式会社ほぼ日」の「やさしく、つよく、おもしろく」という言葉に出会い衝撃を受けた。なるほどこれは分かり易い。しかも、この行動規範は、会社の経営、戦略、人材採用、会社での個人の在り方にまで浸透しているという。これを参考に、3つの言葉に集約する方法を選んだのである。
我々のビジネスには様々なステークホルダーが存在し、その間を取り持つ役割りを担うのだが、何より先に「誠実に向き合う」事が求められる。顧客、候補者、ソーサーの人々、パートナー企業、社内の人々、自分自身に対してもである。その上で、「勇気を持って提案する姿勢」が必要で、これがなかなか難しい。一見、ステークホルダーとの利害と対立する様な場面もあるからである。実は「勇気」という言葉を導き出すのにはかなり時間を要した。例えば、前半期のプロジェクトレビューの中でも、この時点で自分のステークホルダーに対して適切な提案なり、エスカレーションをしていれば・・・という反省点は多いのだが、何故出来なかったかに、適切な答えを見出せなかった。それにはちょっとした勇気が必要なのではないか?という意見があり、皆納得がいったのである。その結果として、「何らかの変化」に繋げる事が我々のゴールではないか、という結論に達した。変化しなければ、発展はおろか現状維持も難しい。その変化を起こす事を標榜する我々自身が変化し続ける必要がある、という意味を込めて。
もともと我々のグループのMissionは、「企業に多様性を提供することで、企業変革を促す」と謳われているのだが、少々大仰な表現かと思う。「誠実に勇気を持って提案し、変化をもたらす。」の方がしっくりくる様な気がするのである。我々のお世話した方々が起点となり良い企業変革に繋がれば、それは本望というものだろう。
実は、信条とか、カルチャー、文化などは、その時のリーダーの属人的なものに成りがちであり、本質的な継承は難しいものと言われる。大企業などで、カルチャーフィットと言っているのは、かなりの努力と年月をかけて、それを文化にまで昇華して来たからだ。これは、れっきとした企業資産なのである。但し、時代にそぐわなくなって来るタイミングで、文化や行動規範も環境に合ったものに見直してゆかねばならない。成長から成熟への転換と言えようか?このタイミングを逸している企業が多いのが、日本経済の特徴の様な気がする。このカルチャー変革は、組織が大きくなるにつれて難易度は高まってゆくし、改革の為の熱量は大きくなる。カルチャー変革を標榜する企業が、人材採用の際に従来のカルチャーフィットを非常に気にされるのも、よくある話である。
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