人の一生は、幼年期、青年期、壮年期、熟年期、晩年期に分けられる。それぞれの時期には、それ以前には考えもつかなかった事態に遭遇する。価値観が大きく変化したり、受け止め方により、成熟した知恵が育まれたりするものらしい。「ああ、何もわかっちゃいなかった」という体験である。
これは私の場合、45歳を超え壮年期から熟年期に入ってからの方が多いのである。今回のテーマも以前一度話題にした事があるが、再度触れたいと思うきっかけがあった。
ある目的を達成するために、直近の目標を設定するのではなく、その先の目標に狙いを絞ると、直近の目標は自ずから達成してしまうことがある。願望する直近の目的が切実なほど、それ自体を追いかけるのは得策とは言えない。直近の目的を包含する本質的な目標を考えてみる。直近の目的の先には何があるのか、に発想を広げてみる。これを本質的な発想展開力なり、Big Pictureを描く力と言い換えることも出来る。
ゴルフのプロが直近の試合に勝ちたいとする。その強い気持ちを一旦飲み込んで、その向こうにある目標、例えば年間平均スコアを、70以下にする事に切り替え、その為の練習に励んだとしよう。平均スコアが70を切るということは、今のプロの世界でも賞金ランキングは10位以内に入る。すると自ずから1勝か2勝かはしている筈である。目の前の試合の勝ち負けに喜怒哀楽するよりも、そういう発想転換が出来れば、気持ちに余裕が出て来て、身も心もリラックスできる。ゴルフはメンタルな競技である。直近の試合も勝ってしまうかも知れない。これは40歳を過ぎて年間賞金王を取った藤田プロも同じ様な発言をされている。年間賞金王には年間を通して元気に活躍する体力、精神力が必要で、それが彼に徹底した体幹トレーニングを強要した。体格的に恵まれず、飛距離もそこそこの彼は、体幹、パター、アプローチ、ゲームプランの達人となった。それに年間賞金王が後からついて来た訳である。
誰もが切実な直近の目的があるものである。叶えることが簡単ではない方が良い。頭も体もこの事に縛られている状態である。若い頃は、この様な考えなど及びもつかない。直近の目標に拘り、その達成の為には少々の事は犠牲にしても構わない、などと考えるのである。だから若い頃の恋愛は成就させる為の知恵が足りないので、結果的に成就しない。その縛られている状態から、身も心も一旦解放してあげる必要がある。間違ってはいけないのは、直近の切実な目的があることが悪い訳では無く、それはむしろ必要で、悩み抜いた上でそこから一旦離れるのが良い訳だ。
一旦離れた後、どの様な発想転換が出来るか?である。ある目的の達成に悩み抜いた経緯があり、その上での発想転換である。ここにも以前のブログにも書いた「価値の読み替え」が登場する。これもイノベーションのきっかけの一つである。ゴルフの試合で勝つとは、一体どういう状態を指すのか?一流選手はその為にどういう努力を続けているのだろうか?自分にとっての強みを活かし、自分のゲームをする為には、何をどうしなければならないのか?ここが肝心な点である。借り物ではなく、「自分なりのゲームプラン」を作れるかどうか?を追求する中で小さなイノベーションが起こるのである。
知恵というものは、本来、自分という素材を活かし切る為にある。社会貢献などと言っても自分がしっかり確立し、人の役に立つレベルに無ければ絵空事である。同じ或いはそれ以上の成果を、自分や周囲をぎりぎりさせず、むしろやり甲斐と気付きの中で成長感を伴って達成してしまう、こんな事が出来れば素晴らしい。今回の「直近の狙いだけでなく・・・」という発想も、その知恵の一つとして幾つかでも実践出来ればと考えている。
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