エクゼクティブサーチの仕事(1)
クライアントの求める人材を広く市場から探し出し、現職の候補者とクライアント双方のwin winとなる地点を見出し、縁を取り持つ事。一言で言うと、この様な表現となる。登録制で人材を集める方式ではなく、あくまで現職のエースを探し出し、狙って口説くスタイルを取っているため、まだ日本では一般的には馴染みが薄いようだ。この様なスタイルを取る理由だが、一つにはエクゼクティブレベルの人材は登録制を嫌うという事情がある。現職のエースは常に仕事が佳境にあり、その必要も無いし、すぐには動けない場合が多い。
但し、グローバルで戦える人材とは、ある環境での専門性と同時に、他環境での適応度の高さを同時に求められる。この為、複数環境や仕事場、或いは、異なる企業の成長ステージでの成功・失敗体験が貴重なノウハウとなって来る。すなわち、一つの環境でのエースは、違う環境でのチャレンジを自ら買って出る積極性がないとグローバルでの勝負は覚束ない、という時代の変化があるのである。この辺りにエクゼクティブサーチが、クライアント側と候補者の間のwin winとなる地点を見出し、その縁を取り持つと言った意味合いがある。
エクゼクティブサーチの仕事(2)
われわれの仕事は、大きく3つに大別される。案件開発、人材探索、顧客紹介と決定である。私どもは新規顧客であっても初回金を頂戴するシステムを長年慣行している。事前に料金の一部をリテインする為、世間ではリテインド・サーチと呼ばれている。国産大企業へ新規参入する場合など、まだ取引実績が無いのに前金制なのでよく驚かれる。前金を頂く以上、我々がある一定の自信が無いと、ビジネスを受ける事は無責任となる。この為、求人仕様、企業環境、競合、企業の魅力などを徹底的に聞き込み、市場環境に見合った候補者像や適正な条件面などをアドバイスしながら、一つの提案書にまとめ顧客の評価を問う。特に企業それぞれが持つカルチャーを知り、候補者が入社後活躍し易い環境を整えるのは、デリケートな難易度の高いコンサルティング作業だ。この様な一連のプロセスを行うには、前金制が適しており、成功報酬型のリクルーターとは一線を画している。
次に人材探索(サーチ)である。どうやって現職のエースを探し出すのか、とよく聞かれる。人材探索は、高度に戦略的かつ創造的な作業工程であり、根気が無いと続けることは難しい。まず求人仕様書を顧客と十分に話し合い、練り込むことが重要だ。社内にいない人材を探すことが多く、よく考えてみれば顧客が完璧な求人仕様を語れるとは限らない。我々にはリサーチャーと呼ばれる人材探索のプロがいる。コンサルタントと協業し求人仕様を徹底的に顧客からヒアリングし、探索戦略を立案する。Talent Mappingなど幾つかの方法論を使った科学的アプローチと具体的に市場に出て泥臭く検証する体験的アブローチの双方を駆使する、「仮説と検証」繰り返し作業である。しかしそれで首尾よく人材が見つかる保証は無い。
候補者と面会し求人仕様への合致度やお人柄を確認し、その方が、今後どういうキャリアを描きたいかを含めたキャリアコンサルティングを行う。案件がその方に取り「価値あるステップ」であると確信出来れば、案件の詳細を披露しアプライの説得を試みる。
アプライされると最後のステップ、顧客紹介と決定である。候補者の職務経歴書と共に弊社の観察を添付し顧客に紹介する。予め求人仕様への合致度を点数化し他の候補者との比較を顧客と論議することも多い。顧客と候補者の面談は通常3回ほど行われ、最終的にはトップマネジメントとの面談となるケースが多い。顧客のGOサインが出ると、条件交渉は我々が顧客と直接行う。この結果オファー条件が候補者に提示され、そのサインアップをもって決定となる。サーチが始まって決定まで通常100日前後のプロセスである。
エクゼクティブサーチの仕事(3)
この仕事をかれこれ15年も続けている。何が楽しくて続けているのか?正直なところ苦しい事の方が多い。何事にも功罪はある。楽しいばかりの仕事はないだろうし、その逆の仕事も存在しない。楽しいと言うと語弊があるが、やり甲斐はある。それはクライアントにせよ候補者にせよ、「気持ち」が通ったと思われる瞬間である。これは何物にも替え難い。大変だなぁと感ずるのは、何より人の人生の重要な決断に立ち会い、縁を取り持つことで、生計を立てる必要がある点である。数字を作る為に、期末だからと言って候補者にサインを懇願出来ない。候補者の人生に関わる重大事だからである。一方で、人の成功と挫折の多くを身近に感ずることが出来る。座学では決して体得出来ない感覚である。これが「人の見たて」に欠かせない。不思議な事に成功体験のみだと意外に脆い。良い挫折体験を乗り越えることで、人は人としての魅力を育むのである。その魅力が人の上に立つリーダーの最低条件となる。「長い人生の中で、何が功を奏するかは本当に分からない」という事が最も端的に理解できるビジネスの一つかも知れない。我々の仕事はかなり先鋭的に専門家した仕事であり、欧米では社会的認知度も高い。何故なら現在のほとんどのグローバル企業の発展を支える人材をお世話して来たからである。この仕事が発生してかれこれ70年余りが経過するが、今後のビジネスの継続性は如何なものだろうか?いつの時代にもリーダーが存在し、次の時代を創って来たという意味では、何らかの形でこういう役割を担うサービスは無くならないだろう。
私にとってのメンターのある人に、この仕事が難しく苦しいと思う事が多い、と愚痴った事がある。その人曰く、貴方の仕事は社会貢献的な色彩が強い。そういう仕事は難しく、苦しいのが当たり前なのだ。楽で楽しくなったら辞めた方がいい、と慰められた。
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