あるものの「死」と同じタイミングで、あるものが「助かる」、あるものが「誕生する」、という不思議な体験をすることがある。これを古人は「身代わり地蔵」などと呼んだようだ。あるものが消え、新しいものが生まれる…ということが、シンクロナイズしてしまうと、両者に何らかの因果関係がある様に思えてくる。
あるいは、「ある事象とある事象は同時には成り立ち得ないのだよ」、という世の中の理(ことわり)や物事の順序のようなものを、「生まれ変わり」の変遷を通して「はっ」と気付かされることもある。
転じて、いま体験している現実が、地球の歴史あるいは宇宙の大いなる営みの中では、全く稀有なバランスの中でかろうじて成り立っている一瞬に過ぎない事を考えると、「人と人との出会い」についても、最近もう一歩深く考えることが多くなった。当たり前のことではあるが、現世での人と人との出会い自体、偶然というか確率的には奇跡に近い訳である。何故、たまたまこの20世紀の日本という国に生まれ出会ってしまったのか・・・少し時代、地域がずれれば絶対に合わなかったのに・・・
一方、毎日満員電車で席の取り合いをしながら、仏頂面をしているか、熱心に携帯をいじっているか、マンガを読んでいるか、眠りこけている、一見「他人には全く興味が無い」風な都会の日本人には、日頃から、「いかがなものか・・・」と思っている。
昔、作家の故井上やすし氏は、バスの停留所で待っていた見知らぬ女性に向かって、「なんだ、ここにいたんだ!」と言ってその人と結婚したという。眞偽のほどは定かではないが、それ位、精神の緊張感を持ってひたむきに生きていた時代のエピソードであり、そういう「出会い」があった筈なのである。
思いがけぬ人との出会いを「邂逅」と呼ぶが、作家の曽野綾子氏はある本の中で、障害者へのボランティア活動の中でのエピソードを紹介している。それは、イスラエル南部の砂漠に障害者と同伴しキャンプした経験だそうだ。夜分、車椅子の障害者が気軽にトイレに行かれる様、若い日本人のサポーターが交代で寝ずの番をしていた。砂漠の夜は寒く辛い夜警であったが・・・夜警の人曰く、(以下抜粋)「キャンプの入り口で焚き火をたき、火のそばで酒を飲み、イカの足をかじりしゃべり明かす。当番でない人までが羨ましがって起きて加わってくる。空を見上げれば悠久を思わせる満天の星が広がっている。生きている実感に満たされた素晴らしい時間だった」、障害者の方々からも、「自分がここまでこれるとは夢にも思わなかった」と言ってくれましたが、不眠番の人たちに楽しい人生の時を与えてくれたのは、障害者の車椅子の彼らだったのです。「邂逅」というものはそういうものであって・・・「こんなにも面白いことがあるのか」という体験にはいくつになっても出会うことが出来る。」と書かれている。この精神の柔軟性、素直な驚きの感覚、そして謙虚さ、いずれも素晴らしいと思う。 そうか、ある事態を通して、思いかけず「人と出会う」また同時に「新しい自分と出会う」のが「邂逅」であったか・・・
そうなのである。日常の喧噪に紛れて、あるいは、周りのいつもの面子と慣れ合い、日常のルーティーンの中で、ある過酷な状況に自分を置くことによって気付くものを、実は取り逃がしている事が多いのでは無かろうか?(勿論、自分を含め)
実は「転職」というものは、本来、人との「新しい出会い」がその本質である、と日頃から思っている。自分の市場評価がどうの、スキルセットは年収は・・・といって、如何に自分を高く売るかにかまけている方を見かけるが、そんな市場評価やスキルや年収などは実は大したことがない枝葉末節なのである。「新しい環境でどう貢献しようか?」その中で通用するものもあったが、通用しなかった事もこれだけあった。世の中広いものだなあ・・・という謙虚な驚きと新しい人との出会いに対する興味、これこそが、転職の「幹」である様に思う。
日本のグローバル経済は、1960年からの30年間で大きく成長してきたが、それを中心的に支えてきた年代は、実は65歳から85歳ぐらいまでの高年齢になっている。その後「失われた20年」は残念ながら停滞していて、その世代を継ぐ年代の方々は大かたは、「グローバル・ブランド」が確立した後に入社し、停滞時期を共に歩んだ人々という構成になってしまっている。日本の大企業もこれからどうなるかは、全く予断を許さない。
では、「ノンブランド」から「ブランド」を自身の力で確立し、グローバル市場に向かって大きく開拓する能力を持つ日本人がどれ程いるのか、というと甚だ心もとないのではなかろうか?「グローバル人材論」華やかな昨今であるが、新しいチャレンジ、人との出会い、邂逅を通してでしか、身に付かないものがあり、その「幹」の分野で皆をリードし、言葉と行動の力で皆をまとめてゆく力を持った方を敢えて「グローバル人材」と呼びたい。そういう方々との「出会い」を楽しみに待ちたいと思っている。
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