スタントンチェイスのグローバル・ミーティングがサンフランシスコで開催された。年二度の定期開催で今回は全世界から100人余りの出席があった。いつもながら自身の英語力の無さというか、むしろ彼らの言語力のパワーに圧倒された一週間だった。それもネイティブ・スピーカーではなく、第二外国語の国々(東欧諸国、南アメリカ、アフリカ、中近東、アジアなど)からの代表者たちの英語力と交渉力が格段の進歩を遂げているのに、目を瞠った。
私共の組織はパートナーシップで株式を所有しあって存続している。従って皆が各国のオフィスの経営者であり、かつ全体組織の株主という構造になっている。会社全体の重要決議は、75%マジョリティの投票で決着してゆく。
普通の株式会社ではなく、何故我々が民主主義の原型とも言えるこの形態を選択しているのか…についての、何と言ったら良いか、「デモクラシーの原点」に対する基本的な洞察を各人持った上で、それぞれの議論に参加する事が普通に義務づけられている。また昼食時や夕食時はそれに加え、ジョークが飛び交うことになるので、笑えるような笑えないような(笑)、また余程体調悪くても常にアイムファインを演じ続けなければならない。5日間も彼らといると、なんというか疲れ果ててしまうのである。
こういう場にいると、つくづく日本の民主主義は借り物の域を少しも出ていないなぁーと感ずる。小職はグローバル外資企業に20年余り、その後スタントンチェイスに10年というにキャリアであるが、日本は外国に比べ根本的な価値観に相違があるなあ、とはうすうす感じていたが、今回のポリティカルな決済事項が山積みの会議に出席し、「そうか・・・これか!」と痛感した。基本的に「分かってくれても、いいじゃない」という、外人からみると理解不能な日本人の村文化。これは英語力云々の問題ではない。やはり我々は淡白なのか。私も普通の日本人よりはこういう事を多く経験してきたつもりだが、今回は独り参加でもあり結構ショックを受けて帰って来た。
さて・・・
昨今のトヨタの米国公聴会云々の問題や沖縄基地移転の問題、マグロ漁禁止の問題またその他の国際関係の中での、日本人の各リーダー達の対応をみるにつけ、いよいよグローバルなレベルでの日本人の対応力が、もっと平易に言うと、「グローバルに通用するコミュニケーション能力」が緊急課題となってしまったなぁ、と痛感する。久しく言われてきたことだが、多くの企業が国内市場でなんとか成り立って来てしまった為に、「海外ではそうかもしれないが、ここは日本、日本では通用しない」、という議論が過去堂々とされていたものである。しかし、飽和化する国内市場から海外に活路を求めざるをえない今後の多くの日本企業にとって、もう待ったなしという感が強い。ビジネスの根幹、企業の生き死にに関連する重要事項を国際舞台でアサーティブに議論し、合意形成のリーダーシップを持って、ある成果物を獲得して来なければならない、というのっぴきならない場面に遭遇する確率が飛躍的に高くなって来ているという事である。
これは勿論英語力だけの問題ではない。海外のグローバル人材が普通に持つ価値観に、多くの日本人が見事に取り残されてしまっているという、由々しき事態ではないかと考えている。問題は多くの日本のリーダー達、言わんや市民のほとんどはそれをそれと実感していない点である。国際舞台で対等な立場で利害の対立した交渉の場に直面し、日本人の価値観そのものが、ひょっとすると世界の舞台の中では独特な狭窄視野ではなかったのか…というショック体験をしない限り、気付きにくい問題だからである。価値観の土壌の違いをよくわきまえ、過不足なくアサーティブに自己の主張を伝え、国益または自社の利益を守り、皆をリードできかつ尊敬される日本人が、政治、ビジネス、教育分野に一体どれほどいるのだろうか?
私見ではあるが、国際舞台で議論する場合、いくつかの「作法」が必要となると考える。
- 相手の立場を尊重したうえで、過不足なく自分の主張を相手に届けることが出来るか?
- 議論のなかで、フェアかアンフェアなのかを即時に判断し、アンフェアな場合、論拠を持って皆に説明し対案を示す事が出来るか?
- 多国籍な文化の中で、皆の合意を形成しリードしてゆく事が可能か?
- 強烈なディベートの後で、反論相手とサバっと飲みに行く事が出来るか?
- お互いの歴史的背景を越えて、個人の独自性で、尊敬しあえる関係が築けるか?
- 互いの長所、短所や文化的違いを踏まえた上で、効果的な合意形成が図れるか?
- 交渉の場で、相手の状況を的確に把握し、「あめとむち」を効果的に使い分け、期待される成果を導き出す事が出来るか、などである。
また、その前提となる価値観として、「デモクラシー」の原則論の理解が必要である。
- フェア、アンフェアについて、グローバルに通用するスタンス(判断基準)を持つ。
- 民主主義本来の合意形成に関するグローバルな判断基準と深い洞察力を持つ。
- マイノリティをどう扱うべきか?に関しての見識を持ち、たとえただ一人になったとしても権力に立ち向かう強い信念と、戦うノウハウ、また弱い立場のものを養護する気概を持ち併せている。
- グローバルに通用するセンス オブ ヒューモアを持つ。
- 西洋史の中での、「個」の確立やデモクラシーに至る葛藤の歴史を理解している。
- 交渉する際、欧米文化の持つ弱みを理解し、「攻めと守り」を柔軟に使い分けられる。
- 外人から見てなるほどという。自分独自の「生き方のスタイル」を持っている。
長く米国の助けを借り、自国内で「うかってしまった」経済と文化。へたに守られてしまった為に、安全や民主主義は与件のものであり、人がリスクを取り勝ち取るべきものであることを忘れ去ってしまったかの様な多くの日本のリーダー達。政治、ビジネス分野での日本の存在感が希薄になりつつある現在、「世界の中での日本人」の孤立感は深刻である。
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