戦略を立てる、それを実行する。親しみのある現代人の思考パターンである。各社、各人懸命に作戦を考え実行している筈なのに、業績やパフォーマンスが僅差では無く大差となってしまうのは、一体何故なのだろう?考えてみれば不思議なことである。
あるコンビニ大手3社の経営陣にインタビューしたことがあり、何故一位にランクされる企業は二位、三位の企業の2倍の売上、4倍の利益を挙げているのかを質問した。その結果は、3社異口同音に、「実行力」と「徹底度」の差なんです、という回答があったのは意外だった。原因が分かっているのに、何故実行に移せないのか?ヘボな戦略でも、その徹底度で差が付くのなら、戦略など考えるのは虚しい気もする。本当に原因は行動の徹底度の差だけなのだろうか?
この様な問いと答えの細部に、我々に見えにくい何かが宿っている可能性がある。私は「自分なりのゲームプランを立てる」事が出来るかどうかが、深く関係している様に思える。先程のコンビニの王者は、自分の強み、弱みを熟知した上で、それを活かす場を作り、勝負に勝っているのではないか?他社はそれに追随する事に精力を使い果たしているのではないか?
ゴルフをされる方はすぐ理解されると思うが、コースマネジメントには、その技量なりの攻めるルートがある。このルートは我々と全日本クラスのアマやプロのルートとは異なる。自分なりのゲームプランで泥臭くしぶとく戦うのだ。海外でのメジャー大会を振り返っても、自分なりのスタイルを持ち、ゲームプランを貫いた者が結果的に勝っている。
企業も個人も各者各様なので、一律の作戦は考えにくい。自分なりのゲームプランを考えるのに欠かせないのは、一体「自分とは何か?」「自分はどうなりたいのか?」という問いである。市場分析はするが、自社が何者か?の客観的な分析を十分行わず、また、どうなりたいのか?を強く意識せずに戦略を立て実施してしまう過ちである。自分とは何か?を冷徹に見つめるのは、なかなか苦痛を伴う作業だが、特に重要なのは、自分や自社の「系譜」を紐解く作業である。系譜とは、何処から来て、今何処にいて、これから何処に行きたいか?を、時間軸の中で歴史的に認識することである。今の結果もこれからの方向性も時間軸を辿らないと見えてこない場合が多い。
各企業の持つ強みや弱みを知った上で、勝ちパターンに結びつく「場」や「環境」を作り出し、そこで勝負する、あちこちではなく、その場でしか戦わないという徹底である。これは大企業の場合、ポートフォリオを大きく組み替える事に繋がる。単に不採算部門をリストラするという単純な発想では、経営者は務まらない。新たな価値訴求の中で、不採算部門の価値を再定義した上で統合し、新たな市場を作り出すことが出来れば最も望ましい。しかもこれこそが経営者の成すべき最大の仕事であり、経営者でなければこの様な大転換は出来得ない。
日常の企業間の戦いでは、ゴルフの様にハンディキャップがない。ただ、戦う相手は2、3社に絞られるケースが多いので、局所戦に持ち込むことが肝要だ。その「場」の設定を日頃からクライアントと十分ディスカッションして合意を形成して置く、或いは自社はこういう特徴と強みを持つというイメージビルディングをしておく事が欠かせない。場を設定してそこで戦う、これがゴルフのハンディキャップと同様の効果を生む。
従って、自分や自社の強みを活かせない「場」や「環境」なら、やらないという決断が必要だ。特に、新規顧客を開発する際、これはやらないという事を声高には言えない場合はある。限られた「場」での自社の評判や実績が出来るまで、辛抱する期間とキャシュが必要だ。その自分の強みとは何かを決定する事に時間と労力をかけて、そのSmall Successを如何に伝播させるかが、勝負の分かれ目となる。
B to B市場の場合、新規顧客を開発するのに、何でも出来ます、案件を下さい、という時代はもうとっくに終わっている。大企業もベンチャーも、そのビジョンとそれに基づくシンプルな戦略、徹底して効率化した実行力が鍵になる。加えて言えば、高年齢化する中で、新たな価値訴求が求められる。朝から晩まで働くのはとても若い連中には敵わないからだ。本格的なワークライフバランスに知恵を絞るべきは、実は高年齢層なのである。
1. 自分を知り、強みを活かしたゲームプランを立てる。
2. 自分の場を作り、そこに追い込んで自分の身の丈に合った勝負をする,
3. そこでのSmall Successを伝播させ、それを徹底する。
一流になるとは、単純に見える3つの事の反復である。もう少し早く気付いておればなぁ、と反芻するこの頃である。